第5話 二人目の主人公


 某月某日。トラロク国という原作で名前しか出ない国の港でノスと別れた。

「俺、年取らないし皆と一緒に入られなくなっちゃたけど折角だし世界を見て回ろうと思うんだ」

 止めてくれその笑顔で心が痛い。彼は陸路で国々を回るらしいしっかりしているので大丈夫だと思うが目いっぱい路銀になりそうな貴金属と役に立ちそうなマジックアイテムを渡した。


「こんなに色々持ったら賊が寄って来て逆に危ないよ」

「そうか、そうだレベルとスキルポイントが上がるポーションもう十本ずつ飲んでいきなさい」

「それ飽きたからいやだ。イーサンって結構過保護だよね」


 飽きたって激レアものなのに飽きたって何だよ。多少心配だが、原作でその後他の主人公と無事合流したんだ信じよう。



 某月某日。船の上でムツミに聞かれた。

「イーサンは何処に行くつもりなの」

「アカツキ皇国」

 原作三部の舞台にになった国で日本を意識したと思われる国だ。そこに向かうと決めたのにはいくつか理由がある。


 一つは、次の事件である原作一部まで少し時間がある事。次にアカツキ皇国には魔術を研究している学院がありそこで色々な魔術を見て使える魔術を増やしたい。それに、レイメイと比べれば文化が進んでいる国なので色々な文献を見る事も出来る。


 最後に日本っぽい国なので俺の肌に合うだろうと思った。

「どんなところ」

「さあ、俺も行ったことがないからね。サムライという戦士がいたり。皇都に蒸気で動くゴレームが

いたりするらしい」

 船に揺られながらそう答えた。割といい客船なのもあって少々退屈なのを除けば快適な船旅だ。そんな船旅もすぐに終わりを告げることになるとは思ってもみなかった。



 某月某日。退屈していたムツミに携帯ゲーム機を出してやったらハマってしまいあまり俺に構ってくれなくなった。賭けじゃんけんでお小遣いを増やすゲームのどこが楽しいのか? 何回もプレーしている。


「イーサンさんですね」

 金髪のベレーボーを被った黒ベストの小柄な少年に声をかけられた。

「あなたは?」

「私はキリーレイと申します。エル・ウルスの……」

「煙幕」

「ナッ感づかれた?」


 ヤバイヤバイヤバイ、俺の天敵初見殺しがきやがった。キリーレイ、無詠唱ノーモーションで光速の光線をぶっばなしてくる凄腕のエル・ウルス諜報員、真の魔眼使い相手でも勝つとんでもない奴が来た。


 とっさに煙幕を出すと、反乱軍にいた頃の仲間が持っていてステータスを「見る」ことでコピー出来るようになった「逃走スキル」を使い素早く部屋に戻り荷物をまとめるとムツミを抱えて海へと飛び込んだ。


「始めは交渉するつもりだったがこれで態度がハッキリした。イーサンお前はエル・ウルスの敵対者だ」


 頭上でキリーの声を聞きながらトランポリンとクルザーを出して着地すると素早く大型の魔術防御用の盾を出して運転席に乗り込み思い切りアクセルを踏む。




 十分距離をとり、安心した後。背中を守っていた盾の後ろ、俺の頭の辺りがあったところに攻撃の跡があり背筋が寒くなり、クルーザに穴が開いて沈みかけていたのですぐに新しいクルザーを出して乗り移った。


「畜生なんていう世界だ」

 かなりチートな能力を持っているのに全く安心できない。次に会ったら能力を使う前に殺されるかもしれない。二度と会わないようにと祈りつつ。航海術スキルを頼りに俺とムツミはアカツキ皇国へと向かった。



 某月某日。アカツキ皇国の港、異界からの流れ物を扱う店にクルーザーを売り払い。俺とムツミは蒸気機関車で皇都を目指していた。


「わ、わあ」

 ムツミは初めて乗る汽車にわくわくだ。交通が整っている国は楽でいい。しばらくこの国滞在しつつ手札を増やす事にしようと思う。



 某月某日。皇都にある魔術学院に来た。

「つまりイーサン氏は長期滞在してとう学院を見学がしたいと」

「ええ、実際に魔術が使われるところや文献なども見て回りたいです」


「困りましたな。機密に関わる事も多いのですよ」

「ああ、これは少ないですが寄付金です」

 贈賄スキルを使い。現代の美術品をコピーして売り得たお金を渡す。


「まあ多少は便宜をはかりましょう」

 この世界で最先端の魔術を見ることができるようになった。



 某月某日。魔術学院や皇都の図書館に通うようになって一月が過ぎた。コピー能力のおかげで各分野の学者並みの知識と新たに様々な魔術が使えるようになっている。


 ふと、いつも使っている道の途中にある教会が目について、見物でもしようと入ってしまった。見物のつもりだったが雰囲気に動かされ祈ることを始める。


 原作を知っている故必要とはいえ悲劇を放置する事が正しいのか。原作という歴史を壊すことが正しいのかと人並みの転生者っぽい事を考えながら祈っていると傍らにシスターがいた。


「お邪魔でしたか、随分と熱心に祈っているとつい目が行ってしまいました」

「いえ、初めは見学だけのつもりでした」

 誰かに話したい気分だったので、思っていたことを適当にぼかしてシスターに伝えた。

「私にも答えは解かりません。ただあなたは迷うながらも進んでいるようにお見受けします。迷いながらも進むあなたに祝福を」

「ありがとうございます」

 シスターに礼を言って教会を出る。そう言えばこの国にいる主人公は転生者だったな。まだこの国でのストーリーまでしばらくあるが会ってみるかと宿への帰り道に思った。



 某月某日。探偵に頼み。三部の主人公ソウトを探してもらった。目の前にいる友達の輪に入れずボッチでいる六歳児がそれである。


 三部の主人公ソウトは現実世界からの転生者である。転生者である故、生前の知識が邪魔で学業が振るわず。精神年齢の高さから子供のテンションについて行けず孤立し、運動も得意ではないそんな主人公である。さて、どうコンタクトをとったものか。


「やあ、僕と遊ばないかい」

 なるべく柔らかな感じで声をかけてみた。

「…………」

 しばらくの無言の後、走って逃げられた。


「待ってくれ、人さらいじゃないって君は転生者なんだろう。俺もなんだ少し話さないか」

 追いかけて説得して、三メートルほど距離を置いて話をすることに成功した。


「喉乾いてないか」

 そういって近くにあった屋台から買ってきた瓶のコーラを渡した。そう言えばコーカーは元気にしているだろうか? そう思っている間にソウトが無言でコーラを受け取った。

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