第4話 レイメイからの旅立ち

 ノックスの戦略をかみ砕くとレイメイ地方をエル・ウルスに本気を出すほどじゃないけど面倒くさい存在だ思わせる事でその為にいつの間にかノックスに知られていた俺の能力をあんまり使わないで欲しいそうだ。


「なあ俺の魔眼とノスの魔眼でエル・ウルスに勝てないのか」

 ノスの魔眼で体力を回復し続ければ兵は疲れることも死ぬ事もなく戦えるそう考えるとブラック企業が泣いて欲しがりそうな代物だ。そして俺の魔眼で物資はほぼ無限に湧いてくる。戦略ゲームならチートもいい所だ。

「少なくとも我々だけで勝つとは言い切れません。エル・ウルスは他にも真の魔眼をストックしているでしょうし確実に」

「そうか、お前がそういうのならばそうなんだろう」


 原作知識があっても俺では出し抜ける気がしないこの軍師が言うのだ大人しく従っておこう。



 ノックスの加入で反乱軍はどんどん勢力を拡大してレイメイ地方の重要拠点であるゼング要塞攻略まで迫っていた。


 その間俺は何をしていたかと言えば、縁を結んでいた原作キャラを反乱軍に勧誘したり、物資を出したりとノックスにいいように使われていた。あいつが俺の事をある程度理解しているのは解かるがどこまで理解しているのか解からない。頼もしい軍師様だ畜生。


「感謝してますよ。あなたが働いてくれている分ノス君の負担は確実に減っています」

 某月某日。そんなこと言いながら元凶は俺のところに来てムツミの淹れたコーヒーを飲んでいる。

「お前は第四の壁の向うから見ている分にはいい奴だよ」


「なるほど作為のない策は読めないものですね」

 そう言うとノックスはコーヒーを残して帰っていった。

「ムツミ、ノックスに何かしたか」


「前にイーサンが言っていたようにたっぷりコーヒーに塩を入れて出した」

 大丈夫だろうかあいつ、苦手だけど、あっさり暗殺とかされたらすごく困るぞ原作が壊れてしまう。



 某月某日。ゼング要塞攻略は原作通りに失敗した。俺が出ていれば勝てたかもしれないがノックスに別の指令が出されてそれを行っていた。反乱軍は元のアジトを放棄して撤退、俺が戻ったのはあつらえたように追撃を止める絶好のタイミングだった。


 反乱軍の中に投擲槍を使う人がいたので、投擲されている槍を大量にコピーして追撃の部隊に放ち殿を勤め上げた。


 本体と合流すると怪我人が多数だが、死者はそれほどではない。治癒魔術で治療して回る。辺りを見て回っていたノックスにあう。

「危ない所でした」

「知っていたくせに」

「ただ、あまり派手に動かれのは困りますね」

「この惨事を知っていてやったお前への意趣返しだよ。せめて策に悩み苦しめ」

 俺は知っている。俺が多少派手に動いてもノックスが違和感のなく収めてくれることを、今回暴れたのはただの八つ当たりだ。


「ノスは?」

「新たな寄るべき地へ行っています」

「ベラ湖の遺跡か」

「やはりご存知でしたか」


 原作ではベラ湖の首長竜を倒してノスは湖の主と認められ湖に浮かぶ遺跡は反乱軍の本拠地となり、その後レイメイ国の主要な都市になる。



 某月某日、ベラ湖の遺跡を手に入れた反乱軍は再び勢力を盛り返し、ゼング城塞を攻略。レイメイの諸部族も決起し、レイメイにいるエル・ウルス人も続々と本国へ帰国している。勝利も

時間の問題だ。


 そんな中、俺は何をしていたかと言えば、ベラ湖遺跡の地下迷宮でモンスターを倒していた。戦略とはいえ反乱の初期はアレが足りないこれが足りないとあっちこっちに行っていたが最近はめっきり暇だ。


 俺が暇なのは組織がうまく回っている証拠だと思う事にしよう。

「イーサン、荷物が素材でいっぱいになったよ」

「そうか、じゃあ帰るか」

 荷物持ちをしてくれるムツミに言われて踵を返す。

「帰りにベラ湖の街にできた劇場によっていこう」

「うん」


 最近、ムツミが少しだけ感情豊かになってきたように思う。



 某月某日、年が明けて聖明歴500年になる。レイメイに残った最後のエル・ウルス勢力も降伏して、反乱いやレイメイ独立戦争は終わった。強大な力を持つ俺は力程人を救えただろうか。


 真の魔眼持ちがいるとエル・ウルスが来るらしいので俺とノスは新しく出来たレイメイ国を離れることになった。ムツミも俺についてくるらしい。強大な力を持つ俺は力程人を救えただろうか。原作では死ぬはずだったゴブリンの村でのノスの友人たちそんな友人たちと別れを惜しむノスを見てゼロではなかったと俺は心に言い聞かせる。


「ムツミ、ちょっと待っててくれ」

 

 港のはずれ、人気のない場所にノックスが待っていた。

「やっぱり来ましたか」

「仕事はいいのか大臣閣下。いや、来てやったぞノスの少年としての時間も場所も奪ったお前を一発殴る」

「ええ、解かっていました」

「腹にしてやるよ。大切な頭が馬鹿になっちゃ困る」


 港の一角に鈍い音が響いて、続いて少し小さい鈍い音が響く。

「てめえ」

「あなたも知っていて放置したでしょう」

 ノックスが俺の頬を殴り返していた。手首が変な方向に曲がっている。

「いてて変な殴り方しやがって、大丈夫か」

「ええ、少しの間デスクワークが休めそうです」

「閉まらない終わり方だな。それじゃあ俺は船が出るから行くわ、お達者で」

「息災であれ」


 そんな顛末なあと、レイメイの港から船が出た。 

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