第2話 グロモニア

「スワン、お前はシホンと共にグロモニアに行きなさい」


スワンは持っていた剣を足元に落とした。


3時間前


 「帰ったぞ」


 玄関先からしばらく聞いていなかった声が聞こえて急いで玄関へと向かった。


 「テビ、俺がいない間に変な虫が言い寄ってきたりしなかったか?」


 「大丈夫よ、たとえそんなことがあったとしても私はキルヤだけなんだから」


 子供の前で口から砂糖を吐き出してしまいそうな会話をする両親を見てスワンは一人考えていた。

この姿を見たら、普段キルヤを敬い、畏怖のまなざしを向ける者たちはどのような反応をするのだろうと。


 「お~スワン、また身長が伸びたか?母さんのことしっかり守ってくれてたんだろうな?」


 「うん、言い寄ってくる男は未然に俺が追い払っていたよ」

 

 「うむ、そうでなくてはな。それでこそわが息子だ」


 キルヤがいない間ほかの男をテビに近づけさせないというのがキルヤとの約束だ。

実際テビにちょっかいを出そうとしている輩がいれば事前に見つけ出し、事実上この国の最高権力者であるキルヤの名前をそれとなくちらつかせて――いや、ガッツり使って悪い虫を追い払っていた。


 それからしばらキルヤはテビとの二人だけの時間を満喫していたが、夕飯前に呼び出され、スワンはリビングへと向かった。


 

 「スワン、剣の稽古は楽しいか」


 「うん、強くなることは楽しいよ」


 「そうか、でもいくら隣にシホンがいるといってもお前はまだまだ対人や対魔物に対しての戦闘が経験不足だ」


 「うん」


 実はそれはスワンも最近感じ始めていることだった。

シホンがたまに模擬戦をやってくれるが対人相手、ましてや女の子に本気で切りかかるなど到底できることではない。

森で稽古をするにしても、現れるのは雑魚モンスターだけ。

深部へ行くことができるのはバトラーだけと決まっている。

だからスワンは自分より強い相手と戦い技を磨くことができないのだ。


 「スワン、俺と模擬戦をしよう。お前がどれだけ技を磨いたのか一度見てみたい」


 「え、いいの!?」


スワンは今までキルヤに稽古をつけてもらったことはあるが、模擬戦は一回もやらせてもらったことがない。

だから今のキルヤの発言はとても衝撃的だった。

16歳という若さで「最強」と謳われるキルヤ・アーベルトと模擬戦とはいえ勝負ができるのは息子の特権だろう。


 二人は庭へ出た。


 「さぁ、どっからでもかかって来い」


いざ、キルヤと対峙してみるとなんともいえない威圧感があり背中をいやな汗が流れ落ちた。

隙がない。

どんな速さで何処に切りかかってもかわされ、終いには後ろを取られそうな気がしてくる。


 「どうした?動かないなら俺から行くぞ」


その言葉を聴いて体をこわばらせる。


 「おいおい、そんなに固まってちゃ反応できないぞ?まぁいい、んじゃそろそろ行くぞ」


キルヤが剣を構え、剣先をシホンのほうに向けた。

キルヤの体が少し傾いた。

 

 (来る!)


 「はい、チェックメート」


 「!?」


スワンが後ろを振り向くと、剣先をこちらに向けにっこり笑っているキルヤがいた。


 「だめだな、やっぱりお前は戦闘になれてない」


スワンは未だに頭の中が整理できずにいた。

キルヤが戦闘体勢に入り、体を少し傾けるところまでは見えた。だが次の瞬間に体の横を風が吹いたと思ったら後ろを取られていた。

この間自分と戦ったシホンも同じ風に感じたのかと思った。


 「スワン、お前シホンと共にグロモニアに行きなさい」


 スワンは持っていた剣を足元に落とした。

グロモニアとは、未来の優秀なバトラーを育成するための学園である。

全寮制で、16歳になると入学試験を受ける権利がもらえる。

グロモニアに行けばいろんな相手と戦うことができるし、教師が同伴であれば普段行くことのできない森の深部へも行って実際に魔物と戦うことができる。

だが、スワンはあくまで自力でバトラーを目指そうとしていた。

それが最強の男の息子である自分のプライドだったのだ。

だからキルヤからのこの進言は少しショックだった。


 「なんでだよ父さん、技術なんか一人でも上達させることができる」


 「今の戦いの後でもまだそんなことがいえるのか?バトラーは技術なんかよりもまずは経験が大事だ。それに人脈も必要になってくる。今まで同い年といえばシホンぐらいしか付き合いのなかったお前は、もっといろんな人と関わり技術以外のことも学ぶ必要がある。あそこに行けばきっとお前は強くなれる!最高の仲間と共に」


 今まで一人で稽古するのが当たり前だった。

自分より強い相手は闘技大会で戦う大人たちぐらいだった。

グロモニア。

そこに行けば自分はもっと強くなれる。

父の言葉を聞き、スワンは学園グロモニアに行ってみようかと思った。


 「わかった、シホンも一緒なんだよね?」


 「あぁ、お前一人だと寂しいだろうしな」


 「うん、俺グロモニアに行くよ。絶対強くなって帰ってくる」


 「あぁ、お前ならできる。俺の息子だからな」


 「うん!」


こうしてスワンとシホンはグロモニアの入学試験を受けることになる。

結果的に合格したのだが。

試験のレベルが二人にとっては低すぎて、わざわざその様子を説明する必要もないと思うので省かせていただく。

これから二人の学園生活が始まる。

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Battler Ns @wanwan1081

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