Battler

Ns

第1話 黒持ち

 プロイウム。

 この世界で最も国土が広く、人口が多い国。

人種も多種に渡り職業に関しては実に500種類以上の職種がある中のバトラーと呼ばれる者たちの物語。


 ゴーン、ゴーン街には日の入りを知らせる鐘が鳴り響いた。


 「もうこんな時間か、そろそろ帰らないとな」


 もうすでに暗くなりかけている森で先程まで脇目も振らず一心不乱に剣の稽古に励んでいたこの少年スワン・アーベルトは16の子供である。

にも関わらず、春先の闘技大会では数々の大人たちをなぎ払いベスト16まで上り詰めた実力者である。


 スワンは将来バトラーとなり、父のようになるべく日々の稽古に励んでいる。

バトラーとは職業の一種で、一般人がギルドに送った依頼をギルドから受け、達成することによって報酬を得て暮らしている人々のことだ。

依頼内容は魔物の討伐、薬草の採取、暗号解読など様々だ。

そのバトラーの中でも特に優れている者は国から黒いリストバンドが手渡され、それをつけている者を黒持くろもちと呼び彼らは黒持会こくじかいと呼ばれる組織に入っていて黒持ちはもちろん、国の政治もこの黒持会が管理している。


 スワンの父、キルヤ・アーベルトは黒持会の会長である。

すべての国民はキルヤに従い、敬意と尊敬の眼差しを向ける。

それは息子のスワンとて例外ではない。

幼い頃から父に憧れ、その大きすぎる背中を今なお追い続けている。


 スワンは暗い森を抜け賑やかな商店街に入った。


 「お〜スワン、帰ったか。どーだ一杯飲んでかね〜か?」


 「ちょいと、あんた!スワンにそんなもん飲ませないでちょうだい!」


 酔っぱらいの男に酒屋のおばさんが説教を初めた。

いつもの光景に思わず頬が緩む。


 「ロックおじさん、俺が黒持ちになったとき一緒に飲ませてよ」


 「お〜!わかった!その日が来るまで何歳になったって、骨だけになったって待ってるよ!」


 「も〜またそんなこと言って!ありがとうねスワン。私もスワンが黒持ちになるの心待ちにしてるよ」


 「うん、ありがとう」


 スワンが小さい頃何か落ち込んだことがあったり、悩みごとがあるとよくこの商店街に来て話を聞いてもらっていた。

そんなスワンを商店街の人々は息子のようにかわいがり、スワンも家族のように慕うのであった。


 居心地のいい商店街を抜け家についた頃にはもうあたりは真っ暗だった。


 「ただいまー」


 勢い良く玄関の戸を開け自分が帰ったことを伝える。


 「おかえりスワン、お風呂にする?ご飯にする?それとも——」


 「ごはんかな」


 「もう、最後まで言わせてくれたって良いじゃない」


 「父さんが怒るよ」


 「キルヤはそんな心の狭い人じゃありませ〜んだ」


 今ふざけているこの女はスワンの母テビ・アーベルトである。

こう見えてテビは黒持ちである。

キルヤと結婚する前まではそれなりの実力者として名を馳せていたらしいが、今は家事に専念している。


 「はいはい」


母の言葉を軽く受け流すとスワンは自分の部屋へと入った。


 「おかえり、スワン」


 「うお!?」


 部屋の扉を開けるとそこには幼馴染のシホン・シャーロットがいた。

シホンはショートヘアーのよく似合う、いわゆる美少女である。

シホンの上目使いに騙された男は数知れず。


 「なんでいるんだ?」


 「お母さんに夕飯作りすぎたからスワンの家に渡してきてって頼まれて来たんだけど、おばさんにシホンがもう少しで帰ってくるから部屋で待っててって言われたから待っててみた」


 「ま、まぁいいけど。じゃあ夕飯前に手合わせでもしようか」


 「シホンはそればっかりだね。まぁ今日は私もそうしたくて待ってたんだけどね」


 「ん?そうなのか?よし、じゃあ庭に行こう」


スワンとシホンは庭に出てお互い模擬刀を構えた。

シホンの動作を見ることに集中する。

居合は少しでも隙を見せれば間を詰められ切られる。

達人同士の戦いになると向き合ったまま数時間黙ったままなんてこともあるらしいが本当にそんな時間一瞬たりとも気を抜かないということが人間にできるのだろうか。


 「動かないならこっちから行くよ」


 「ああ、いいよ」


そう言うとシホンは一気に間を詰めシホンの攻撃がスワンに当たると思った瞬間、スワンの姿が消えた。


 「後ろだよ」


シホンが振り返ったときにはもうすでにスワンの剣先がシホンの首元を捉えていた。


 「え、ちょ、何が起こったの?早すぎて全くわかんないんだけど」


 「まだまだ鍛錬不足だなシホン。珍しくやる気だったから何か秘策が思いついたんだと思ったんだが・・・・・・」


 「そうだよ!でもまさかこんなに早く終わるとは思ってなくて・・・・・・だからもう一回——」


 「スワン!シホン!ご飯食べましょ!」


 家の中からテビが呼ぶ声がした。


 「今いくよ、シホン続きは今度だな」


 「うん、そうだね」


満月が出ている夜空を見上げ、スワンは何か壮大な物語が始まるような気がした。







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