第6話
バコッ!! ドカッ!!
「な、なんだ、こいつら……うわあああ!!」
鎧の男達が騒ぎ始めた。周りを見回してみれば、カーマインのメンバー達が鎧の連中と戦い始めている。
「すまねぇ、ティーネ! 準備に手間取った!! 大丈夫か!」
「まったく……遅いんだよ、クワントル! てっきり、逃げたかと思ったじゃないか」
「そうしようかとも思ったんだがね? ここは俺らの『家』だろ? 他に帰る場所なんて、思いつきゃしなかったのさ! シュン! 受け止めろ!」
クワントルは膝をついているティーネを抱え上げると、高く放り投げる。眼帯の男の樹上を通り越して、ボクの両腕の上へ。
ガシッッ!
何とか受け止めることができた。顔を上げると、クワントルは剣で眼帯の男に斬りかかっていた。だが、難なく鉤爪で防がれる。
「シュン! ティーネを連れて逃げろ!! ここはどうにかする!」
「な、待ちな! 逃げるなんて……グッ!」
「ティーネ! 無理だよ、そんなんで動けるわけ!」
「ここは……アタシらの家だ! 行き場のないアタシ達が、ようやく見つけた……それを荒らされて、おめおめ……」
立ち上がろうとするティーネ。だが、膝が震えていて、すぐにバランスを崩してしまう。
ボクはそんな彼女の体を抱き上げた。
「ミリア! ここから逃げるよ! 道開けて!!」
「は~い! それじゃあ、いきますよぉ! コモンスキル発動、インパクト・ブロウ~!!」
ミリアが杖をかざすと、ノールーツの入り口に向かって、強烈な風――いや、衝撃波が走った。ミリアと扉の間に立っていた鎧の連中が四人、そのまま外へと吹き飛ばされる。
おかげで、脱出するための道が開ける。
「よし! ミリア、走って!」
「あ、待ってくださ~い!」
ボクがティーネを抱えてドアへと走ると、ミリアもそれについてくる。
ノールーツの外に出た瞬間、嫌な臭いが鼻をかすめた。何かが燃える……灰の香りだ。ここからは微かにしか感じられないけど、多分、街が燃えているんだ。
「とにかく、ここから離れよう!」
ボクはそう言って、ミリアのほうへと振り返る。やっぱり、彼女はあまり足が速くないため、少し距離ができてしまっていた。
額に脂汗が滲んでくる。
ミリアの向こう側。ノールーツの入り口から、あの……眼帯男の姿が見えたからだ。そして、男はこちらに向かって走り出す。
ダメだ、早い!
ボクはティーネを脇に抱え直すと、すぐさま右手を前に突き出し、敵に向ける。
「ミリア、伏せて! コモンスキル発動、アイス・スプレッド!!」
ボクの前に無数の氷のつぶてが出現する。そして、勢いよく前方へとバラまかれていった。
ミリアはすぐさま地面に倒れ込む。彼女の頭上を通り越した氷の粒は、男とその周辺に激突――その場を凍りつかせてしまう。
「やったか!?」
しまった、と思った。
理由は二つある。一つはこれが負けフラグだから。
もう一つは、眼帯男は飛び跳ねていて、さっき当たったと思ったのは残像だったからだ。
ボクはすぐさま、突き出していた手を空中の男へと向け直す。だが……。ボクの視界に、赤い光のラインが浮かぶ。眼帯の男から、こちらに向かって。
「遅い! 引き裂け、クロスラッシャー!!」
眼帯の男は、両腕の鉤爪を交差させるように振りかぶる。すると、男の前方から線状の閃光が、こちらに向かって放たれた。
「ヤバい!」
多分、コイツを喰らっても、ボクは死なないだろう。通常の剣戟がデコピン程度の痛みだった。
だが、死なないというのと、無事であるということは違う。
ティーネを抱えて逃げないといけない状況で、予想外のダメージは受けたくない。だが、余計なことを考えたせいで、咄嗟に避けるのが遅れてしまう。
「ブランチスキル発動ぉ、スロウ・エクステント~!」
ミリアの声が響くと同時に、ボクの眼前に透明なガラスの壁のようなものが現れる。こちらに向かってきた閃光が、その透明な壁に触れると、急激に速度を落とした。
ボクはその隙に、その場から走り出す。
振り向くと、ゆっくりと進んでいた数十の閃光が、壁を抜けると同時に再び加速。地面に当たると同時に弾け飛び、大きな裂け目をいくつも作っていた。
「戦うのは……ダメだ」
ティーネの動きを見切り、遠距離からも攻撃が可能。ミリアとボクだけで、どうにかなる相手じゃない。
だからといって、このまま逃げるという選択も危ない。ミリアは足が速くないし、ボクもティーネを抱えながらだと、どこまで走れるか……。
なら、足止めが必要だ。
「ミリア、全力で走って!!」
「は、は~い!!」
地面に伏せていたミリアは、すぐに立ち上がって、大通りに通じる道に向かって駆け出した。
眼帯の男は、地面に足を着けると同時に、こちらに向かってくる。
それに合わせて、ボクは空いている手を地面に押し付けた。
「コモンスキル発動! ライズ・オブ・グラウンド……三百倍!!」
地属性強化アビリティを総動員してのスキル発動。
ボクの前にあった地面が一気に盛り上がり、そのまま巨大な壁になった。高さは……多分、二十メートルは超えている。横にも長く伸びていて、回り込むにしても時間はかかるはずだ。
今のうちに、ボクは大通りへと走っていったミリアを追い駆ける。
頼むから、このまま諦めてくれ!
そう祈りながら、ボクは一瞬ノールーツのほうへと振り開ける。
隆起した地面の向こうから、灰色の煙が上がっている。大きな壁となった褐色の大地の上、人影のようなものが映る……だが、それも壁の向こう側へと姿を消していった。
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