第5話

 カンカンカンカンッ!!

 けたたましい鐘の音が響き始める。ノールーツの中にいたカーマインのメンバー達も、慌て始めた。

「おいおいおい! 大通りのほうから煙が上がってるぞ! どうなってんだ?」

「ちょっと待て……なんだ、ありゃ? 街が……襲われてる?」

「ゴブリン? いや、違うな。あれは、もしかして……」

 ドカンッ! ザッザッザッザッ!!

 ノールーツの入り口が破られ、そこに数人……いや、数十人の男たちが入ってくる。部屋を壁沿いに歩き、ボクらを囲むように並んでいく。

「ちょっと! なんだい、アンタらは!!!」

 ティーネが叫ぶが、彼らはまったく反応を見せない。真っ黒い甲冑で全身を覆った連中は、微動だにしないまま立ち尽くしている。

「大人しく投降しろ。そうすれば、命までは奪わない」

 最後に入ってきた男は、低く響く声でそう言った。両手を後ろに組んだまま、まっすぐに立つ、眼帯にスキンヘッド……あいつは確か!

「お前、ルードヴィッヒと一緒に、祝賀パーティーに乱入してきた……!」

「何だって? じゃあ、こいつら、『黒の』連中なのかい?」

 ティーネは包囲を続ける甲冑の連中を見回す。だが、全員が兜をかぶっているため、一人として顔を確認できない。

 ティーネは眼帯の男に視線を戻す。

「アンタ、見たことない顔だね。あれかい? 新しく黒の兵団に加わった新参者ってとこだろ。まさか、新人に指揮を執らせるなんて、そっちにゃ、よっぽど人材がないんだねぇ」

 ティーネが挑発する。だが、眼帯の男はその言葉に一切反応しない。

「大人しく投降しろ。そうすれば、命までは……」

「そいつはこっちのセリフだよ!!」

 ティーネが後ろ腰に差していた二本の短剣を逆手で抜く……と同時に、一瞬にして間合いを詰める。

 ガキィィィィン!!

 振り抜いたのは、右。だが、眼帯の男は完全に防いでみせる。彼の手の甲には、鍵爪が装備されていて、それでティーネの刃を受け止めた。

「やるじゃない! ならぁ!!」

 ティーネはそのまま、軽く飛び跳ねる。そして、男の顔面を目がけて、回転蹴りを放った。

 だが、眼帯の男は、それを上半身を後ろに反らすことで躱す。さらに、その反動を利用して、バク転をするようにティーネを上方へと蹴り上げた。

 ティーネはそれを読み、相手の蹴りに合わせて、半身をひねる。体そのものは飛ぶが、ダメージは最小限に抑えた。そのままクルクルと周りながら、見事に着地をしてみせる。

「思ったより、強いじゃないかい!」

「……全員、抜剣せよ!」

 眼帯の男が指示をすると、ボクらを囲んでいた鎧の連中が、一斉に剣を抜き、構えた。

「やるっていうなら……本気で相手してやるよ!!」

 ティーネは、態勢を低くする。両脚を大きく開き、体全体が床にべったり付いてしまうギリギリの状況で、止まった。

「一瞬で片を付けてやるよ!! 万迅万雷! 月華の狂刃んんん!!」

 消える。

 ティーネの姿が見えなくなった。

以前、ここでミリアに仕掛けた時とは違う。ボクの目にも追えない速さだ。時折、影のようなものが映るだけ。

そして、影が現れるたびに、ボクらを囲っていた鎧の連中が倒れていく。

五人……六人……七人。

彼らも、何が起きているのか把握できないらしい。次々に味方がバタバタと床に這いつくばっていく姿を見て、動揺し始めている。

「スゴい……ティーネ、これなら!」

だが、ボクの目には不吉なものが映った。例の男の、眼帯をしてないほうの目が、猛スピードで動いている……何かを追いかけるように。

次の瞬間、男はバッと駆け出し、すぐにジャンプ。空中で右足を思いきり振り上げ、そのまま振り下ろした。

 ドンッ!! ズッゴオオオオォォォンッ!!

 轟音と共に、煙が舞い上がった。部屋の中にホコリが立ち込める……が、それはすぐに晴れていった。

 床板に穴が空いている。そこに、小さく呻き声を上げながら、倒れ込んでいるティーネの姿があった。

「ティーネ!!」

 ボクはすぐに彼女の元へと駆け寄る。だが、黒い鎧の男達に阻まれ、たどり着けない。

「くそっ! 邪魔するなよ!! ティーネぇ!!」

「うるさいね……聞こえ、てるよ……こんなんで、負けて……たまるかよ」

 鎧の男達の向こう側で、ティーネが立ち上がる姿が見えた。だが、その正面には、眼帯の男が悠然と立ち塞がっている。

「はっはっは……まさか、アタシの本気に追いつくなんてね。リーダーかヴァスくらいの……もんだと思ってたけど……はぁ、はぁ、はぁ。人間にも、骨があるヤツがいるもんだ」

 マズい。

 強がってるけど、どう見てもティーネは満身創痍だ。このまま戦うなんて無理に決まってる。

 打たれ強さに任せて、突っ込んでいく?

 できなくはないかもしれない。でも、そうなるとミリアはどうなる? 彼女も決して弱くないだろうけど。明らかに、肉弾戦ができるタイプじゃない。数で押し切られたら、きっと捕まってしまう。

 でも、こいつらを全員倒そうとしたら、その間にティーネは……!

「どうすれば……」

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