第20話
「なぁ、ミリア。ボクが使ったエイリミネイションって、どのくらい効果があるんだ?」
「そうですねぇ、通常ですと~一分ほどが限界でしょうかぁ。でも~、シュン様にはアビリティがありますから~、合算すると~五時間くらいは続くかと~」
よし、それなら!
「ねぇ、ゲンダ! せっかくだから、この青い空を飛んでみたら? ただ眺めているだけなんて、もったいないよ!」
「おお、それはよいな! うむ、ワシも飛んでみたい! この晴れ晴れとした空を飛んでみたいぞ! どうじゃ、お主も一緒に飛んでみぬか?」
「え、いいの?」
「もちろんじゃとも! ワシらは仲間であろう!」
ドラゴンの背に乗って空を飛ぶ。うわっ、父さんが見せてくれた古い映画みたいだ。何だか興奮してきた。
ボクとミリアは、ゲンダの尻尾から周り込んで、彼の背中によじ登った。背中に生えている縦に尖った鱗がちょうどいい感じで、掴みやすい。
「さあ、飛ぶぞ! 振り落とされるなよ!」
バサッバサッバサッ!
ゲンダが翼を羽ばたかせる。すると巨体がゆっくりと浮き上がっていった。
「ミリアさーん! シューン!! 助けにきたぞぉ!」
「食われちゃいないだろうね、シュン!」
崖のほうから声が聞こえてきた。これは、ヴァスとティーネだ。
「大丈夫だよ! ボクもミリアも無事だから!」
そう答えると、崖の向こうから二人が飛び上がってきた。
「シュン、どこに……って、うおっ! ど、ドラゴンのやつ、まだいやがったのか! くそっ、嵐が消えたからてっきり逃げたのかと……うん? 背中に……ミリアさん!?」
「シュン、アンタまで……なんで……一体どうなってるのさ!」
ヴァスもティーネも、目をまん丸くしながら、こちらを見ている。
「あのね、このドラゴンはボクの仲間になってくれたんだ! これから一緒に飛んでいくんだけど、二人も乗っていくかい? いいよね、ゲンダ!」
「うむ、お主が望むのなら、それに従おう!」
ボクは親指を立てて、後ろに乗るように合図した。
ティーネはすぐに表情を緩め、目をキラキラさせながらドラゴンの上に駆けあがってくる。ヴァスのほうは、何やら怯えているようで、ゲンダの体に触れるのさえためらっている。
「もう! 早く乗りなよ! 置いてくよ!」
「いや、そうは言うがよう……こいつは、ドラゴンだぞ? さっきまで命の取り合いをしていた相手で……」
「……もういいや、面倒くさい。ゲンダ、行っちゃおう!!」
ボクはゲンダに見えるよう指差した。向かうのは東の方角――リィンバームである。
「よかろう! では、行くぞ!」
ゲンダは翼をさらに強く羽ばたかせる。すると、彼の体は一気に上昇を始めた。それに驚いて、ヴァスはゲンダの尻尾に飛びつく。
直後、ボクの体は下から押し上げられるような感覚を覚えた。例えるなら、垂直上昇型の絶叫マシンに乗ったような気分。
「うおおぉぉぉぉ! すっげぇーー!!」
次の瞬間に見えたのは、雲と同じ高さから見下ろした世界。
ちょっと前にも、似たような景色を見た覚えがあるけど、あの時は落ちている最中だった。今度はじっくりと、観ることができる。
下をのぞき込めば、山の麓に倒れたテントがいくつもあった。どうやら、黒の兵団の連中は、ゲンダの嵐のせいで大慌てになっていたらしい。いい気味だ……というのは言い過ぎかな?
「ふっはーー! すごいねぇ、こりゃスゴい!! ギルドの連中にも自慢できるねぇ! ドラゴンに乗るなんて……シュン! アンタ、どうやってコイツを仲間にしたのさ?」
「あとで説明するよ! それより、このままリィンバームに帰っていいかな?」
「いや、多分それはやめといたほうがいいね。いきなりドラゴンが街に近づいたら、みんな驚いちゃうよ!」
それはそうか。つい先日、ドラゴンの嵐で街が大露わだったわけだし。
「じゃあ、ちょっと離れたところに降りてもらおう。ゲンダ、お願いできる?」
「おお、任せておけ……っつ! 誰じゃ! ワシの尻尾をひっかいとるのは!」
ボクとティーネは後ろを振り返る。そこには、振り落とされまいと必死にしがみついている、ヴァスの姿があった。
「おい……おいぃぃ! とまれ! おち、落ちちまうだろうが!!」
「なんだい、ヴァス。結局乗ってるのかい? しばらく飛んだら降りるから、落っこちないようにしなよ?」
「ふ、ふざけんな~! お前にゃ、人の心ってもんがないのか! おい、ティーネ……ティーネさ~ん! 頼むから、そっぽ向かないでくれ~!」
これまでに聞いたことがないような、情けない声が聞こえてきたけど……きっと気のせいだな。
「世界征服の~第一歩ですねぇ!」
ボクはバッと振り返る。恐る恐るティーネの様子を見ると、目を輝かせながら、辺りをグルグルと見回している。どうやら、ミリアの言葉は耳に入っていないらしい。
「ミリア、頼むから軽々しく『世界征服』って言葉を口にしないでくれ。誤解されると困る」
「誤解って~本当のことじゃないですかぁ」
「そうだとしても! わざわざ周りから変な目で見られたくないの! わかった? まったく……あれ、ちょっと待てよ」
ボクは嫌なことに気づく。ゲンダを始めて見た時、ミリアがボクに言ったセリフを思い出した。
「ミリア……キミさ、ボクに『あのドラゴンを下僕にしましょう』って言ったよね、街で。もしかして、最初から知ってたの? ゲンダリオンの正体……」
「ええ? それはそうですよ~。言ったじゃないですかぁ、有名なんですって~」
もうイヤ、この子。
「なんで、そういうこと……先に言わないのさ!」
「はい? 知らなかったんですか? てっきり聞いているものかと~」
「聞いてる? ミリア、一体何を……」
フワッ
内臓が持ち上がるような感覚。まるでジェットコースターに乗った時みたいな――つまり、ゲンダが急降下を始めたのである。
「この辺りで降ろすぞ! 落ちないように注意せい!」
「さ、先に言ってよ、そういうの!!」
急速に滑空していくゲンダの背中で、大事なことを思い出した。ボクは高いところは大丈夫だけど、ジェットコースターは苦手だってことを。
何とか無事に地上へと、たどり着くことができた。が、ミリアを除く三人は、盛大に酔ってしまい、まともに立ち上がれなくなった。
ミリア、いろんな意味で、スゴいなキミは。
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