第17話
ギロリッ
ゲンダの金色の瞳が、ボクに鋭い視線を突きつける。
あ、嫌な予感。
「それは駆除できぬ場合であろう? 毒虫全てを潰せば、何の憂いもなくなるではないか。ワシに食いつく毒虫ならば、ワシが潰し回っても問題あるまい」
グオオオォォォォォォッ!!!
ゲンダリオンは牙がびっしり生えた口を開き、空を震わせるような咆哮をあげる。
「ちょ、ちょっと……嘘でしょ!!」
「己を毒虫と称した以上、手心など加えぬ。貴様を潰し、あの街を潰し、二度とワシに歯向かえぬように心を挫いてやろう!!」
ゲンダは腕を振り上げ、そのままボクに向けて爪を立てようとした。
スゴゴゴォォォォッッ!!
間一髪で避けたが、さっきまで立っていた場所に、三本の抉られた跡が生まれた。
まずい、本気だ!
とりあえず、ゲンダから離れるために、全力で走る。それから振り返って、体勢を立て直した。
テンペストドラゴン――遠距離攻撃も近距離攻撃も弾く、強力なアビリティ〈轟嵐〉を持つ竜。ボクは今、そいつと向き合っていて、相手はこっちを叩き潰す気でいる。状況としては最悪だ。
何よりもマズいのは、ヤツの標的がボクだけじゃないってこと。彼は言った、「貴様を潰し、街を潰し」と。
「冗談じゃないぞ! ボクのせいでリィンバームを襲われるなんて……そんな最低な展開、認めてたまるか!」
ボクにできることは多くない。だが、ここで踏ん張らないなら……逃げ出してしまうなら、それは同じになるってことだ。ボクが『大嫌いだった連中』と、同じになるってことだ。
だから、ここで選べるのは一つ。〈たたかう〉だけ。
「やれるだけ、やってやる!」
「ほう、ワシと戦う気か! では、貴様の毒とやら、確かめてやろうではないか!」
ボクは構える。ちょうど、やり投げをする選手のような体勢だ。
「コモンスキル発動! スパイキング・ボルト!!」
右手から光が弾け出す。バチバチッと音を立てたのは、無数の電流。それが束となり、槍のような形に纏まった。
ドラゴン討伐に向かうにあたって、ボクはミリアからスキルの使い方を教わった。それは最低限のものだったが、ボクにとっては十分なものらしい。
なぜなら、ボクに付与された数え切れないほどのアビリティが、最弱のスキルさえ大幅に強化するからだ。
雷属性攻撃力倍加と三倍加、そして五倍加と十倍加。その全てが乗算されることで、雷のやりはどんどん大きく膨らんでいく。
「三百倍の雷撃槍……くらえ!!」
バリィィバリバリイイィィィッッ!!
目にも止まらない速さで、雷撃槍はゲンダの喉元まで飛んでいく。だが、彼に当たる直前でピタッと止まった。
ヒュウウゥゥゥ! バリッバチィィッ!! ゴゴゴゴウウウゥゥゥ!!
嵐と雷のせめぎ合い。雷の槍はわずかに前進する……が、それが限界だった。
バシイィィンッ!! ゴッゴオオォォォン!!!
風に弾かれた雷撃槍は、そのまま直角に曲がり、ドラゴンのそばにあった岩壁に激突。そこに巨大な穴を空けた。
「クソッ! ダメか!!」
ボクはもう一度、腕を振り上げ、別のスキルを使おうとする。
「コモンスキル発動! アイシクル……」
ガシッ!
空に向けたボクの腕をミリアが掴む。
「無理ですよ~! そんなのじゃあ、通じないんですぅ」
「ちょっと! 何してるの、ミリア……痛いって、いたたたたた!」
思いきり体重を載せて引っ張るもんだから、腕がもげるかと思った。しかも、その勢いで姿勢を崩し、顔から地面に激突。とてつもなく痛い……ワケじゃないけど、さっきまでの緊張感が解けてしまった。
「ダメですよぉ、無理なんです~。今のシュン様じゃあ、あのドラゴンには敵いませ~ん」
「そうかもしれないけど……このまま放っておくわけには!」
立ち上がろうとするが、今度は腰をミリアに抱えられて、バランスを崩してしまう。
「ダメなんです~。頑張れば、どうにかなるとか~、そういう問題じゃないんですよぉ」
ボクはミリアを睨みつける。だが、彼女の表情は変わらない。感情の読めないその顔が、今のボクにはどうしようもなくイラついてしまった。
「だったら! ミリアがどうにかしてよ!! このままじゃ……リィンバームが襲われちゃうんだぞ!!」
メチャクチャだ。
ゲンダリオンの怒りの矛先が、リィンバームに向かったのはボクの落ち度なのに。ミリアはただ、現実を教えてくれているだけなのに。
ボクは自分の言動が恥ずかしくて、顔を下に向けてしまう。
「はい、シュン様。最善を尽くします」
「ふぇ?」
驚いて、とんでもなく間の抜けた声をあげてしまった。それまでとはまったく違う、ハッキリとした声でミリアが喋ってからだ。
呆然としていると、ミリアはすっと立ち上がり、ドラゴンの目の前に立ってみせる。
「今度はお主が相手か? ワシは小娘とて、容赦などせぬぞ?」
「ワタシが唯一頂く征服者の命令であれば、全力で応えるのは当然ですから」
ミリアは手にしている杖を空高くに掲げた。
「我は乞う! 全てを覆う天蓋に、全てを導く瞬きを! 全てを育む煌きを! 祝福は我と共に、災禍は彼の者の元に!」
彼女が詠唱を始めると、ゲンダの遥か上空に、光の粒が現れ始めた。そして、少しずつ集合を始め、だんだんと巨大な光球へと姿を変える。
ゲンダもすぐに気づき、輝く球体に目を向ける。
「これは……まさか、お主……!!」
「ここに唱えよう! その名は、〈天道より迎えし栄光〉!!」
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