第14話
草木一本生えていない禿げ山。灰色の岩と砂利ばかりが目に付くカルナ山を登り始めて、どのくらい経っただろうか。
特に疲れを感じないのは、やはり何か特殊な能力が身に付いているからだろう。だが、どれだけ体力があろうと、長時間何もない景色を目にするのは、退屈なことこの上ない。
だから、ちょっと気になったことを尋ねてしまった。
「ヴァス……どうしてルードヴィッヒのこと、そんなに嫌うんだ? そりゃ、とてもいい奴には思えないけど、こんな無謀をしてまで頭を下げたくないなんて……」
その質問に答えたのは、ヴァスではなくティーネだった。
「あいつはね、元々リィンバームの住人じゃないのさ。どこかの国の兵士長を務めていたらしいよ。実際、腕はなかなかのもんだからね」
「それと、彼を嫌うことにどういう関係があるの?」
すると、今度はヴァスが応える。
「リィンバームみたいに、人間やら亜人やらがごっちゃに住んでいる街はめずらしいのさ。大抵は同じ種族で固まってるんだよ。んでもって、他の種族への敵対心はむき出しと来てる。人間の国にいるヤツは、亜人をそこらの獣と同じだと思ってんのさ! ルードヴィッヒは、まさに典型だ……ミリアさん、大丈夫かい?」
ヴァスはミリアが段差を登りにくそうにしているのを見て、そっと手を差し出した。
「あ、ありがとうございますぅ。でも、大丈夫ですよ~、シュン様ぁ、手伝ってくださ~い」
「なんで、ボクが……はいはい、ほら! せーのっと!!」
隣からヴァスが睨みつけてくるのがわかったので、ボクは大人しくミリアに手を貸した。まあ、それでもヴァスの機嫌は悪そうなんだけど。
「ルードのヤツはあたしらを嫌ってる。特にカーマインは亜人だけのギルドで、リィンバームではそれなりに立場もあるからね。あたしらがいなけりゃ、あいつはもっと好きなだけ、亜人をいびれるって思ってるんだよ」
傾斜の厳しいところも難なく飛び上がりながら、ティーネは言う。それから、ボクを引き上げるために手を差し出してくれた。ボクは彼女の手を握って、思いきり地面を蹴り上げる。
「カーマインを押さえれば……ルードヴィッヒは街でもっと威張り散らせるってわけか。だから、あんな手の込んだことをして、こっちが頭を下げるように仕向けたんだね」
「そういうこったな! ルードの野郎は、バカ丸出しで俺らにケンカを売ってくるだけの奴だったから、相手にするのは楽だったんだが……」
そう言いつつ、ヴァスも急斜面を一足飛びで乗り越える。あとはミリアを引っ張り上げるだけだ。
ヴァスは腕に巻いていたロープを解き、下に向かって垂らす。ミリアがそれを握ったのを確認して、ボクらはロープを引っ張り上げる。こうしてようやく、少し開けた場所にたどり着くことができた。
「多分、誰かが入れ知恵をしてるんだと思うよ。人間、そう簡単に変わるもんじゃないからさ」
「やっぱりか……厄介だな」
ヴァスはその場で荷物を下ろし、ボクらはしばらく休憩することになった。
「ほれ、シュン! 干し肉とパンだ。ドラゴンと闘う前だからな。しっかりと食っとけよ」
またか……。
正直、この味気ない食事はいただけない。まあ、遠征の最中だから、保存食しかないのは仕方ないけども。カップラーメンを望んだりはしないまでも、もう少しまともな食べ物はないものか。
こう考えれば、やはりボクらの世界というのは、ずいぶんと先進的なのだと実感する。
「カーマインが人間に屈するわけにはいかないってのはわかったよ。でも、ならどうして、ボクを仲間に入れたの?」
ヴァスとティーネはきょとんとした表情を浮かべた。一度お互いの顔を見合わせると、ティーネのほうは肩をすくませた。すると、ヴァスがもう一度こちらに顔を向ける。
「なんでってお前……なんでだ? いや、なんでだろうな。まあ、ミリアさんがいたからってのはあるけど」
「それならミリアだけ入れればいいじゃないか。そうすりゃ、邪魔者がいなくなるだろ?」
ボクの言葉に、ヴァスは眉をひそめ、頭を掻きながら考え込んでしまう。
「まあ、そりゃそうなんだが……いや、そうだ! 似てたからだ!」
ヴァスは手をポンッと叩き、何かに思い当たった様子を見せた。
「似てる? 何に?」
「俺達にだよ! シュンは俺らに似てたんだ! いや、別にお前の顔が亜人顔だって言ってるんじゃねぇ。なんつーか、ほら……雰囲気がよ、俺やティーネに似てるのさ! なぁ、ティーネ、お前もそう思うだろ?」
「そんなもん、あたしにわかるわけないだろ!」
むしゃむしゃと干し肉を噛みながら、ティーネはつっけんどんに言い放った。
似てる……似てる? 雰囲気が? どういう部分の?
と、聞こうとした瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます