第13話

「おい……おいおい! なんで、俺らしかいねぇんだ? ヴァーレンの連中がいねぇじゃねぇかよ!」

 ヴァスの声に、ボクも歩いてきた方角へと目を向ける。見えるのは黒の兵団が立てたテントと、そこから歩いてくる影が二つ――ミリアとティーネだ。

 ティーネは何やら重たそうな荷物を背負いながら、こちらに歩いてくる。ミリアは、いつも持っている杖だけを手にし、ティーネを気にかけずに駆けてきた。

「シュンさまぁ! ひどいですよ~、ワタシを置いていくなんてぇ」

「いや、そんなつもりなかったんだけど……ていうか、勝手についてきたのはキミじゃないか。別に、テントで待ってても……」

 と、ここまで言って考える。黒の兵団がロクでなしの集団なのは間違いないだろう。さすがに、そういう連中の中に女の子を一人で置いておくのはいただけない。

「おい、ティーネ! ヴァーレンカイトの連中はどうしたんだ? なんで誰も来ねぇんだよ!」

 ヴァスが大きな声を上げた。それを聞いたティーネは苛立ちを隠さない。

「知るか! そもそもアンタたちが勝手に言っちまうから……こっちは慌てて準備したんだっつーの! ああもう、重たい! ホラ、こっからはヴァスが担いでよ!!」

 ティーネは担いでいた荷物を思いきりヴァスに投げつける。

「おっとっと! そりゃ、どういう意味だ? 俺達は『黒の』連中が準備に時間がかかるっていうから、先に行くことにしただけで……」

「ああ? 『黒の』ヤツら、アンタ達が手柄欲しさに先に行ったって言ってたよ? アタシは冗談だと思ってたんだけど……ホントに先行っちまってて驚いたんだから! ヴァーレンの法術師達は、向こうの言うこと鵜呑みにしてたから、黒の兵団と一緒に動くだろうね」

 それを聞いて、ボクは思った。

 してやられた。

 最初からそういう目的だったわけだ。ボクらを煽ったのは、こういう状況を作るためか。ドラゴン退治なんて大仕事、ボクらだけで達成できるわけがない。だから、こちらが孤立するように仕向ければ、頭を下げてくるはず……そんな算段があるわけだ。

「はぁ、面倒だけど……謝るしかないか」

 そうすれば、少なくともボクら四人だけでドラゴンと対峙する必要はない。命賭けの戦いをするくらいなら、恥をかくくらいは我慢しよう……ボクはそう思ったのだけど。

「はぁ? シュン、お前本気か!? 俺は御免だぞ! そんな……ここでルードの野郎に謝罪なんて、できるわけがねぇ! 俺のプライドが許さねぇ!」

「いやいや、こんなところで意地張っても仕方ないでしょ! これからドラゴンと戦うんだよ? そんな……この四人だけで進むなんて、無理だってば!」

 上空を通っただけで、街を半壊させるドラゴン。そんなものと闘うってだけでも無謀だと思うのに、そのメンバーが四人って……悪いけど、ボクには自殺願望はありません!

「大丈夫ですよ~! シュン様なら~、ドラゴンなんてぇ、へっちゃらですからぁ!」

 いらないことを言うなっての! どうしてミリアは、ここまでボクを追い詰めるんだ? わざとか? わざとだろ!

 でも、ノリノリなのはミリアだけじゃなかった。

「あたしは全然かまわないよ! ドラゴンとやり合うなんて、この先ないチャンスだからねぇ! むしろ、あたしらだけで本当に手柄を持っていっちまおう! そしたらルードのバカ、どんなマヌケ面するか……こいつは楽しみだねぇ!」

「ちょっと……ティーネさんまで、そんな! 三人とも、冷静になってよ!」

「いいや、ここは退くわけにはいかねぇ! これはカーマインの、いや亜人の尊厳に関わる問題だ! ドラゴンは俺達だけで倒す!」

 そういうと、ヴァスとティーネはツカツカと山を登り始めた。それも、かなり急ぎ足で。

 みるみる遠くなる二人。

 さて、どうしたものか……。

「あのぉ、悪いんですがね、私は黒の兵団と一緒にいくことにしますよ。さすがに、護衛が四人じゃあ、頼りないんでねぇ?」

 それだけ告げるとレイマーと従者は、山を下っていく。

 ヴァス達を追いかけるか、はたまたレイマー達についていくか。

「なぁ、ミリア。ドラゴンと闘って、ボクが死んだりすることはないの?」

「大丈夫ですよぉ! 今のシュン様なら~、そう簡単に死んだりしませんからぁ。多分、大丈夫ですぅ」

「多分、ねぇ……」

 ハッキリ言って、ここで無茶をしても、ボクには何の得もない。ヴァス達と違って、ルードヴィッヒに頭を下げるのだって、耐えられないほど嫌ではない。むしろ、それで自分の危険が低くなるなら、喜んで土下座だってする。

 ただ、このままヴァス達を見送って、死なれたりでもしたら、寝覚めが悪いにも程がある。

「ミリア、何かあったら逃げるよ。全力で逃げるからね」

「もう~、シュン様は~心配しすぎですぅ」

「いや、キミが気楽すぎるんだよ、ミリア」

 ボクは頭を横に振りながら、険しい斜面を上向かって登り始めた。

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