第10話
ボクの一言に、またその場にいた人達がざわつき始める。隣にいたヴァスは、手で目を覆っている。が、明らかに口元が笑っていた。
「ネタばらしをされてしまったわね。本当はそこまで言うつもりはなかったのだけど。ただ、その子が説明した通りだわ。報酬は十二分に用意するけれど、街の危機に仕事ができないギルドでは、存在する意味はないでしょう? そういう噂が嫌なら、この仕事を受けてもらいたいものね」
結局、それ以降は誰も言葉を発しなくなってしまう。いや、正確にはヒソヒソといくつか内緒話をしているらしい声は聞こえた。ただ、ハッキリと発言する人間はいないまま、その場は解散となってしまう。
部屋を去る間際、例のヤンキーみたいな男に、すごい勢いで睨まれたけど。
広い部屋の中、最後まで残ったのはボクとヴァス、そして市長さんだった。
「ヴァス、なかなか面白い拾いものをしたようね。その子、優秀じゃない」
「口が達者なだけじゃないぜ。動きも悪くねぇ。俺の爪を凌ぐは、ティーネの動きを見切るは……見込みは十分ってところだよ」
「ふふふ。あなたがきちんと人間と向き合うのは、久しぶりじゃない。ずっと避けていたでしょう?」
「おいおい、あんたがそれを言うのかい……忘れたぜ、そんなこと」
意外だ。ヴァスが人間嫌いなんて。
出会った次の瞬間には、ミリアに求婚する男である。そんなヤツが、人間を嫌っていたなんて、どうして想像できようか。まあ、異種族なんだから、偏見とかはあっても不思議じゃないけど。
「そうだったかしら? わたしも長く生きてきたから、色々忘れてしまっているのね。ところで、あなたのギルドももちろん、参加してくれるわね? ドラゴン退治」
「団長がいねぇ状態だと、さすがに不安もあるが……手を挙げるヤツはいるだろうさ。少なくとも俺ぁ加わるぜ。リィンバームは俺の故郷みたいなもんだ。ピンチとあれば、無視はできねぇ」
故郷を守る、ねぇ。
ボクにはよく理解できない話だ。故郷なんて曖昧なものを、体を張って守るなんて……ロクな結果にならないだろうに。
「この子は? 参加してくれるのかしら。ええっと……」
「シュンだよ。そいつの名前はな」
「シュン君ね。どうかしら、あなた。ギルドっていうのは、どうも考えるのが苦手な人が多いから、あなたのように賢い子が加わるのは心強いのだけど」
買い被りがすぎるでしょ、それは。
「いやいや、ウチにはヴァスがいるんですから大丈夫でしょ?」
ボクが視線を向けると、ヴァスはニヤニヤしながら言う。
「俺ぁ腕の立つ男だが、頭のほうはからっきしだよ。惚れた女のことになると、頭に血が上っちまう程度には、バカな男なんでなぁ」
面白いことになったぞ、って顔をしてる。
ボクが市長に気に入られたこの状況を楽しんでいるな、ヴァスのやつ。
うぅ、こういう面倒事には極力関わらないでいたかったのに……まぁ、調子に乗った自分も悪いけど。
ああ、こうなると余計な挑発をしてきたルードヴィッヒがさらにムカついてきた。
「ヴァスもこう言っているし、協力してくれないかしら? 他の連中よりも報酬に色を付けてあげてもいいわよ」
「おいおい、そいつはズルいだろう。俺らだって命賭けで……」
「あら? 『惚れた女のことになると頭に血が上るほどのバカ』なのでしょう、あなたは。それなら、シュン君ほど役には立たないんじゃない?」
ヴァスが片目を閉じながら、頭に手を当てている。ここで効果音をつけるなら、「ギャフンッ!」が正解だろうな。
市長さんはボクの手を取り、ニコニコ笑っている。営業スマイルなのはわかるが、そういう顔をするのは卑怯すぎる。まるで母親から面倒なお遣いを頼まれたような心境だ。
「わ、わかりましたよ。でも、危なくなったら逃げます。速攻でとんずらしますからね!」
「ええ、構わないわ。子どもにまで命を捨てろというほど、私も鬼ではないのよ」
頭をくしゃくしゃと撫でられる。そういうのは苦手なんだけど、どういうわけか市長さんからされるのは悪い気がしなかった。
「ああ、そうだわ。まだきちんと名乗っていなかったわね。私はリィンバームの市長、エルレイン=ゾルダートよ。今後ともよろしくね、シュン君」
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