第9話

 あ、この男が、アレのリーダーなのか。

 街の復旧を手伝っていると、やはり……というか、悪さをするヤツらを見つけた。まあ、こっちの姿を見たら、襲い掛かってきて、持っていた武器やらを勝手にぶっ壊すだけだったけど。もちろん、その場でとっ捕まえて、ヴァスに預けた。

 ボクが見つけたのは三人組だったから、他の場所でも、同じような悪党が捕まっていたのだろう。

「なっ!? テメェ、ふざけたことを……」

「何なら、被害に遭った連中を連れてこようかね? どうだろうか、エルレイン市長?」

 市長さんは、目頭に指を当てながら、大きなため息を吐いた。

「その件については、追って処理することにしましょう。ルード、あなたにも責任は取ってもらうわ。ギルド内の統制も、ギルド長の仕事よ」

「わ、わかっちゃいるけどよ。ウチみたいな大所帯じゃ簡単にゃいかねぇ……」

 さっきまでの態度のデカさが嘘のように、しょぼくれてしまっている。

「言い訳だけは達者なのね? できないっていうなら、別の人に交代してもらったら?」

 ここで皮肉を言うとは、思ったよりも怖い人だなぁ。う~ん、できれば今すぐここからお暇したいところだ。

「話を戻そうかしら、ヴァス。これから話すのは、なかなか大切な内容だわ。信頼できない人間に聞かせるわけにはいかないのよ? 勝手に子どもを連れてきて、一体どうするつもりかしら」

 場の空気がピリッとした感じになる。さっきまで、悪態をついていたルードヴィッヒも、それ以外の人間も、一気にボクとヴァスのほうに視線を向けた。

「そ、そうだ! ガキなんか連れてきて……ここは子守りをする場所じゃあねぇんだぜ! これだから頭の足りねぇ犬っころはいけねぇぜ。おい、ガキ! その犬連れて、さっさとママのところに帰りな!」

 ああ、なんかすごいイラっとするなぁ。こんな頭の悪そうな男に、バカにされる理由はないんだけど。

 ヴァスのほうは、ルードヴィッヒの話を完全に無視してる。

「信頼できない、ねぇ。そりゃ、そうだわな。だが、俺が見込んだ男だっていうところで、納得しちゃあくれねぇか?」

「そういう問題ではないのよ。これから話すのは……」

「ドラゴンの対処……ですか? もしそういう話なら出ていきますけど?」

 ボクとしては、あのドラゴンの話には関わりたくない。ミリアが言うには、この世界のボクはとても丈夫らしい。体を強化したりダメージを抑えたりする能力――アビリティがたくさんついているのが理由だ。

 けど、だからってあんな嵐を纏って空を飛ぶ巨大生物なんて相手にできるわけがない。物事には限界がある。それをあのドラゴンで測るつもりは、ボクにはない。

「あら? どうして……そう思ったのかしら?」

「どうしてって……この状況だと、そうなりません? この街を仕切ってる市長さんが、わざわざこのタイミングで人を集めてるし、その中には街一番のギルドのリーダーまでいるわけだし……なら、あのドラゴンを追い払うなり、倒すなりする話になるでしょう? あれ、何か間違って……?」

「ふふふ、いいえ……間違っていないわ。あなたの言う通り、ここは例のドラゴンへの対策をお願いするための話し合いをする場なのよ。もっとも、そのことに気づいていなかった人間も何人かいるみたいだけど」

 市長さんが、周りを見渡すと、席に座っていた人のうち、三人ほどが目をそらした。その中には例の悪態をついていた男――ルードヴィッヒも含まれていた。

 ははは! なんだろう、すごい気分がいい!

「では、どうするべきだと思うかしら? せっかくだから意見を聞いてみたいわ」

「え? 意見って言われても……ボク、子どもですよ?」

 さすがにこれ以上踏み込みたくはない。ルードヴィッヒの間抜け顔が見られただけで満足である。

 なので、こういう時はとぼけるのが一番だ…と思ったけど、そういうのは許してくれないらしい。

「子どもの意見が、大人のソレを超えることはままあるのよ。別にあなたの責任を問うなんてことはしないわ。ただ、考えを聞かせてくれればいいのよ」

「え、そうだなぁ……とりあえずは様子を見る、かな? だって、あのドラゴンはこの街を襲わなかったですから。あくまで上空を通り過ぎただけで。もう一度こちらに飛んでくるなら話は違うけど」

「ええ、そうね。私も同じ意見よ」

「でも、そうじゃないですよね? それならわざわざ、こうしてみんなを集めたりしないですから。また、来るんですか?」

 ボクの質問に、その場にいた人達は顔を見合わせる。市長さんは口元を緩めている。けど、目がまったく笑ってないよ。怖すぎる……。

「こちらに来る……という確信はないわ。ただ、ほど近い西の山に留まっているという情報があるのよ。そのままどこかに飛び去ってくれればいいけれど、そうならないかもしれないわ」

「空を飛んだら対抗できないですよね? もしそういう手段があるなら、四日前に何かしら手を打ってるはずですから。行動するなら今。叩くなら、手の届くところにいる内に……ですか?」

 可能なことと不可能なことをハッキリと分けて考える。問題に対処する場合に何よりも重要な点だ。自分の力量以上のことをしようとすれば、必ずしっぺ返しが来る。できないことは無視するべきで、できることなら支払う労力と見返りを天秤にかけるべきだ。

「街を守るためには、それが最善だと思っているわ。どうかしら、ここに集まった皆も、街のために戦ってもらえる? もちろん、報酬は弾むわ。これは一等級以上の依頼として、各ギルドに発注するつもりの案件よ」

「おいおい、ちょっと待ってくれよ。ギルドへの依頼なら、どうしてわざわざ、俺らを集めたんだ? 意味ねぇだろ、そんなこと。時間のムダじゃねぇか!」

 ルードヴィッヒが眉間にシワを寄せながら、疑問を口にした。本当に理由がわからないって表情を浮かべてるし……これが最大手のギルドのトップって、恐ろしすぎる。

「そんなの決まってるでしょ。皆のいる前で宣言することに意味があるからだよ。『全てのギルドに依頼した』ってね。もしこの依頼を受けないなら、それは他のギルドに対して、『うちのギルドはドラゴンが怖いんです』って言って逃げ出したのがバレるわけで」

 報酬を上げるのは大事。けど、他人を動かすなら、ペナルティも大きくするべきだ。その落差が大きいほど、人間の行動を縛ることができる。

 ボクはこういうやり方が死ぬほど嫌いだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る