第6話

「地獄からの侵略者なんて、それこそ勇者だの英雄だのが倒すべき敵でしょ? 世界を纏めて戦うなんて、そっちは王様の仕事だし。どうして世界征服が必要に……」

 すると、ミリアはボクの前に手を差し出した。親指を除く、四本の指を突き出して。

「もう~、失敗してるんですよぉ。四度ほど~。最初は〈王〉でしたぁ。次は〈勇者〉でぇ、次は〈賢者〉でした~。最後は~四百年くらい前にぃ、〈英雄〉が戦って~命を落としてます~」

「いやいや、失敗してたら世界が滅ぶんでしょ?」

 ボクは首を横に振りながら、ミリアの矛盾を指摘した。けれど、彼女も首を振る。

「追い返すところまでは頑張ったんですぅ。でも~、地獄の門を破壊はできませんでした~。だから~、時間が経つとぉ、また来ちゃうんですよ~。しかも~、前回よりも強くなって~……このままだと~、いつ追い返すのも無理になるかぁ、時間の問題って感じですよ~」

「なら、世界征服なんてしなくていだろ? 外からヤバい連中が来るなら、皆で協力すればいいじゃんか! これまで何度も、危険な状態があったんだから」

「ダメですねぇ。危機だと認識されていませんから~。これまで~、何度か~撃退できてしまったからぁ、次もどうにかなるって雰囲気? あるんですよねぇ」

「全員で対処する必要がある問題だけど、誰かが頑張るだろうと思って、誰も彼も楽観視してる状態……か。どこにでもあるな、そういうのは」

 でも、その気持ちはわかる。他人のために、率先して頑張る奴は、大抵手痛い目に合うものだ。恩は仇で返ってくる……ならいっそ、傍観するのが得策である。

「この世界の人には~、纏めるのは無理なのでぇ、シュン様にお願いしてるんですぅ。どうか、この世界を救うために~、エクスフィアを征服しましょう~!」

「よし、目的はわかった。じゃあ次は、ボクが自分の世界に戻る方法だ」

 そう、これは聞いておかないと。

 仮に目標を達成したとしても、元の世界に戻れないなら、それは無駄な努力だ。それならいっそ、この世界で細々と暮らすほうを選ぼう。世界が滅びるその日まで。

「戻るだけなら~、ワタシが送ればいいだけですよ~? ちょ~っと準備はいりますけどぉ。その気になれば~、今日中に帰っていただくのもできるはずです~」

「へ? それってマジ?」

「は~い! 本当ですぅ」

 これは意外だ。こういう場合、与えられた目標を達成しないと、元の世界に戻れないみたいな条件があるものだと思っていた。

 なんだ、それならすぐに戻してもらおう。

「じゃ、じゃあ、今日とは言わないけど……明日でもいいからさ。ボクを元の世界に戻してよ!」

「いいですよぉ、お安い御用です~」

 よし! いいぞ!

 なんだ、案外簡単に通ったなぁ。元の世界に戻りさえすれば、あとはなかったことに……。

「でも~、お忘れかもしれませんけどぉ、ワタシなら~、いつでも呼べますからねぇ? シュン様のこと~」

「あ、忘れてた」

 そうだったよ、元々ボクは授業中にいきなり召喚されたんだった。その状態じゃ、いくら元の世界に戻っても、またいつこっちに呼び出されるかわからないじゃないか!

 これからいっそ、呼ぶのも戻るのも難しい条件付きのほうが、よっぽど安心できる。

「はぁ……ちなみに聞いておくけど、ボクを戻せる人間って、キミだけなのかな?」

「そうですね~、ワタシ以外は知らないですねぇ」

「ということは、世界征服を実行しつつ、ボクとミリアが死なないように立ち回る必要があると。その上、地獄の軍勢は三年以内に押し寄せてくるから、それまでに目標を達成する必要があるわけで……え、何この鬼畜な難易度は」

「大丈夫ですよ~、シュン様ならできますぅ」

 無責任な励ましは、むしろ重荷なのですが。ああ、どうしてこんな不運な状態に陥ってしまったのか。

 異世界召喚なんていう、中高生が羨ましがるような夢物語に足を突っ込んでさえ、理不尽な環境に身を置くなんて、きっとボクは呪われているに違いない。

「とりあえず、改めて聞いておくけど……見逃してくれる気は、ない?」

「ありませんよ~! シュン様だけが頼りなんですぅ」

 瞳をウルウルさせながら訴えるミリア。

「うぅ……今さら、そういう顔をするのはズルい気がするぞ」

「お願いしますぅ! 世界征服してくださ~い」

 ミリアがボクのズボンを引っ張りながら懇願する。

「ちょ、なんでそんなところを引っ張るのさ! 放してよ!」

「ダメですぅ! 世界征服するって~、言ってくれるまでは~話しませ~ん!」

 ぶら下がるように引っ張られているせいで、ズボンがズルズルと下に降りていく。やばい、下着が見えちゃいそうだ。

 ドカドカドカドカッ!

 その時、ドアの向こう側から激しい足音が聞こえてきた。

 ドンッ……ドンッ……ドンッ

 どうやら部屋の扉を手当たり次第に開けて回っているらしい。しかも、その音はどんどんこちらに近づいてくる。

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