第4話
歓迎会の翌日。
ボクは目を覚ましてすぐ、ミリアの部屋を訪ねた。ミリアは散々渋ったが、さすがに年頃の男女が同じ部屋に泊まるべきではないと思い、ボクがお願いして別々の部屋を用意したもらった。
ヴァスも「そのほうがいい。絶対にいい」と言ってくれたため、二人は違う部屋で寝泊りしている。
コンコンッ!
「は~い? どなたですかぁ?」
ボクがノックをすると、扉の向こうからミリアの声が聞こえてきた。相変わらず、間延びした喋り方をするなぁ。
「ボク……シュンだけど。入って大丈夫かな?」
「シュン様でしたか~。大丈夫ですよぅ、お入りくださ~い!」
許可も出たので、ボクは扉を開けて部屋の中に入ろうとした……が、すぐにドアを閉める。
「どうしたんですかぁ? 入っていいですよぉ?」
「いいわけないでしょ! な、ななななななんで……なんで何も着てないの!?」
「ワタシ~、眠る時は~何も着ないんですよぉ。そうじゃないと~、寝つけないんで~」
「今は起きてるでしょ! ていうか、まだ服を来てないのに、『なんで入っていい』って言ったのさ!」
「シュン様でしたら~、別に見られてもぉ、構わないですから~。アレでしたら~、触っていただいても~」
「そんなことしないから! いい? 服を着たら出てきてね! 向こうで待ってるからね!」
ボクはそう言って、ノールーツの酒場まで歩いていく。
昨日の夜とは打って変わって、ほとんど人気がない広間。カーマインのメンバーは、みんな夜中までドンチャン騒ぎを続けていたから、まだ目を覚まさないんだろうな。
ただ、酒場のカウンター内からはいい匂いがしてくる。どうやら朝食の用意をしているらしい。実際、三人ほど、朝食を口にしながら談笑しているのが見えた。
「お待たせしました~」
ミリアがようやく部屋から出てきた。もちろん、きちんと服を着て。
「あれ~? シュン様ぁ、その服は?」
「ヴァスに頼んで用意してもらったんだよ。さすがに制服のままだと目立つからね」
どう考えても、自分が違う世界から来た人間だなんて、誰かれ構わず教えるべきことじゃない。疑われるような行動や格好も控えるべきだ。そうじゃないと、余計なトラブルに巻き込まれるだけになる。
「それで~、何の御用だったんですかぁ?」
「あ~、それなんだけどさ。とりあえず、聞いておきたいことが……」
その時、さっきまで朝食を食べていたはずの三人組が、こちらに気づいて声をかけてきた。
「よう、新入りさん! お前、アレなんだってな?」
「え? アレって、何のこと?」
「アレだよあれ! 違う世界から来たんだろ? こことは別の世界から! そこのお嬢ちゃんから聞いたぜ?」
マジか。
ヴァスはミリアから聞いたと言っていたけど、まさかあのバカ騒ぎの中で宣言した感じなのか? それじゃあ、隠そうとしてるボクがバカみたいじゃないか!
「どうなんだい、おい? あれは本当なのか?」
「本当ですよぉ! シュン様は~、世界征服をするためにぃ、この世界にいらっしゃったんですぅ!」
なにが「いらっしゃった」だよ! 勝手に呼び出したんでしょ、そっちが!
「ははぁ! そいつはスゲェな! それじゃあ、せいぜい頑張れよ、世界征服!」
三人組はそのまま出口へと向かっていった。とりあえず、彼らは冗談だと受け止めたらしい。
ホッと胸を撫で下ろす。
だが、問題が消えたわけじゃない。本当は今から、ボクがこの世界に呼ばれた理由を聞くつもりだったからだ。
だけど、こんな人目につくところでは、まともに話ができない。自分の部屋とか、ミリアの部屋なら……とも思ったけど、昨晩は隣の部屋のいびきで、なかなか寝つけなかったのを思い出した。壁が薄いのは困る。
ミリアの口から、一体どんな爆弾発言が放り投げられるか、ボクにはさっぱりわからない。だから、二人の会話が他の人間に聞かれない場所を探す必要がある。
「ねぇ、ミリア。キミはこの街、詳しくないの?」
「この街ですかぁ? よくわかりませんねぇ、訪れたのは二回目ですし~。前回はぁ、シュン様を~、呼び出す準備に寄っただけでしたから~」
「そうか……う~ん、そしたらどうするか」
と、悩んでいるところに、ちょうどよくティーネが姿を現した。明らかに具合が悪そうだが、壁に手をつきながら、何とか歩いている。
こういう時は、地元の人に話を聞くのが一番だ。
「ティーネさ……ティーネ、おはよう」
「うぅ……キモチ悪い。胸の辺りがムカムカする……くっそ~」
こっちの声が聞こえているのか、いないのか。とりあえず、ボクのほうに視線を向けてくれてはいる。目が合ったから、話せる状態だと判断して話を続けてみる。
「あの、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「あぁ? 約束の件だろ……うぅ。ちゃんと守るって……あの女もメンバーとして認め……うっぷ」
「えっと、大丈夫?」
背中をさすろうとしたけど、ティーネは手を突き出した拒んだ。だから、ボクも一歩引いて、話を続ける。
「いや、ミリアのことじゃなくて。どこか、静かな場所ってないかな、この街に。できれば、誰にも声を聞かれないで済むところがいいんだけど」
ボクの質問に、ティーネは顔をあげる。二日酔いの苦しさと、ボクの質問に対する訝しさが同居した、何とも言えない表情をしている。
だが、ティーネの視線はすぐ、ボクの後ろへと向けられた。そこに立っているのはミリアである。ティーネは何かを察し、呆れたように言う。
「街の大通りを中央広場のほうに……右手に赤い屋根の、武具店が見えたら、横の路地に入る。その先に白い看板……何も書かれてない看板の店があるから。アタシの名前を出せば融通利かせてくれるはずだよ。ついでだから、さっさと金を払うようにって……伝えといて……うっぷ」
「本当に大丈夫? 手を貸したほうが……」
「いいから! この程度で、あたしは……助けなんて。それよりも、アンタ……朝っぱらから、ほどほどにしときな、よ……うぷぶぷっ」
ティーネの顔が一気に色を失っていく。と同時に、彼女はどこかへと走っていってしまった。願わくば、ちゃんと間に合ってくれることを祈る。
「ミリア、出かけよう。ちょうどいい場所があるみたいだから」
「そうなんですか~? シュン様の行くところなら~、どこへでもついていきますよぉ」
まあ、付いてきてもらわないと困るんだけどね。聞きたいことは山ほどあるんだから。
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