第2話
「フンッ! 度胸だけは認めてあげるよ! ほ~ら、酒持ってきな! いいかい? ここにいる連中全員が証人だよ。言い逃れなんて許さないからね!」
カーマインのメンバー達は一気に大盛り上がり。終いには、どちらが勝つかで「賭け」が始まる始末である。
これはもう……ついていけない。そもそも、ここメチャクチャ酒臭いし。現役高校生がいていい場所じゃないでしょ。
ボクは少しゲンナリしながら、酒場の端にある階段を上っていく。
実はノールーツの三階には、なかなか見晴らしのよいバルコニーがある。今日の昼、カーマインのメンバーが案内してくれた時に見つけたのだ。
外に出てみると、お酒の匂いから一気に解放され、心地よい風が頬を撫でる。そこから見える景色は実に清々しい。三つの太陽が全て、地平線の向こうに消え、空にはたくさんの星が輝いている。月は地球と同じく一つしかないが、向こうのものより、ずっと大きい。
このバルコニーは三階にあるが、想像よりずっと高かった。もともと巨木を改造して作ったような建物で、三階は頂上に近くに作られている。おかげで、他の建物に邪魔されることなく、街を一望できた。
ぐるっと円状に壁が囲む街。中央に大きな屋敷が見え、そこから煌々と灯りが漏れている。
だが、それ以外はぽつぽつと柔らかな明かりが見える程度である。日本のように外灯で照らされてはいない。暗い街並みは、少し不気味ではあるけど、この静けさはどこか心地いい。
「ミリアが追い出されたらどうしようかなぁ。ついていくしかないよな……多分。ボクが向こうに戻る方法、見つけないといけないしなぁ」
昨日は一日、本当に色々なことがあった。未知の世界に呼び出されたと思ったら、急に世界征服をお願いされて……そういえば、どうしてボクが世界征服をしなければいけないのか、まだ聞いてないぞ?
昨日の騒ぎの片付けとか、ノールーツの案内とかで、結局一日潰れてしまった。一番肝心なことも聞かず、何やっているんだろうか、ボク。
バルコニーの手すりに頬をつけながら、ボーッと街を眺める。今後のことを考えてみるものの、あまりにも情報が少なすぎて、どうしていいやらさっぱりだ。
「こんなところにいたのか。お前、下は大変なことになってるぞ?」
後ろから声がした。振り返ると、そこには二足歩行の狼が、酒瓶を持ちながら立っていた。
「今、悩んでいるところだから。ミリアが追い出されるとなったら、ボクもここにはいられないし……どうしたものかなぁ」
「なんだ、そりゃ? お前、そんなこと考えてんのか。言っておくがな、ティーネは気性の荒いヤツだが、自分の言葉を違えたりはしねぇぞ? だから、そいつは杞憂ってもんだ」
ボクはヴァスの言っている意味がわからなかった。
「だから、悩んでるんじゃないか」
「は? だから、悩む必要はねぇって言ってんだよ」
どうも話が噛み合わない。おそらく、ヴァスが酔っ払っているからだろう。なので、この話題にこれ以上ツッコまないことにした。
ボクが何も言わないでいると、ヴァスも手すりへと近づいてくる。手に持った酒瓶に口をつけて、グビグビと中身を喉に流し込んだ。
「ぷはぁ~! んめぇなぁ、おい! ほれ、お前も飲め」
ヴァスが瓶をこちらに渡そうとする。ボクは手を横に振ってみせる。
「飲まないよ。ボクはまだ十六歳だから。お酒が許される年齢じゃないよ」
「おいおい、何言ってんやがんだ? 十六っつったら、もう立派な大人じゃねぇか! 酒ぐらい飲めねぇでどうすんだよ」
そうだった。
ここは異世界なんだから、『未成年の飲酒は禁止』なんてルールはないわけだ。まぁ、だからといって、ここでお酒を飲もうという気にはならない。昨日のミリアを見ていたら、お酒がいかに怖いか……嫌でもわかる。
ボクが渋い顔を浮かべていると、ヴァスは酒瓶を下げて、もう一度自分の口に運んだ。
「お前の世界じゃ、それがルールってわけだ。それじゃあ、仕方ねぇな」
「そうそう、ボクの世界じゃそういう……うん?」
今、何か変なこと言ったな、ヴァスが。
「え~っと、ぼくのせかいって何のことだろう? ちょっとよくわからないなぁ」
「ミリアさんが言ってたぜ、お前はこことはまったく違う場所、違う世界から来たんだってな。ついでに、お前の目的は世界征服だとも言ってだぞ。はっはっは!」
口が軽いなんてレベルじゃない……一体何を考えてるんだ! いや、何も考えてないのか、お酒入ってるんだもんね、あははははは!
「それは……アレだよ! ミリアの妄想! 彼女、ちょっと変わってるんだ。なんというか……自分の考えた『お話』を、本当のことだと思い込むところがあって! というか、酔っ払いのとんでも話なんて、まさか本当に信じたりしないよね?」
「そりゃお前……酔った勢いの与太話だろうさ。違う世界の人間が、こんなところでウロウロしてるわきゃあないだろ」
「うんうん! その通りだね!」
「そう思ってたさ。お前のその反応を見るまでは」
「ギャフン!!」
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