第四章「災厄は空からやってくる」
第1話
カーマインの拠点「ノールーツ」にて、ボクとミリアの歓迎会が始まった。前日の騒動を見ていたカーマインのメンバーは、概ねボク達を歓迎してくれている。
「いや~、昨日はなかなかヒヤヒヤさせられたッス。まさか、ティーネの短剣を砕いちまうような、すっげ~法術を詠唱なしで、こんな美人な姉ちゃんが使えるなんて……ありゃ、なんて術なんだい?」
「あれは~〈エクステンド・エレクトロ〉っていうブランチ・スキルですねぇ。雷撃系統の上級スキルなんですよぉ! ぐびっぐびっぐびっ!」
どうやら、昨日ミリアが見せたスキルは相当スゴいものだったらしい。スキルというものは本来、〈詠唱〉だの〈準備動作〉だの〈発動条件〉だのが必要になるみたいだ。強力なスキルほど、そうした縛りが強くなるって話だけど……ミリアはそれを無視してスキルを発動させた。それが彼女の実力を示すものになったのだ。
強い奴は、相手が誰だろうと尊敬する。
そういう気風が、ここの人達にはあるらしい。
てゆーか、ミリア……また、お酒飲んでるし。
ノールーツは酒場と宿屋を兼ねた施設みたいだから、そこで騒げばお酒が出るのはわかるけど……昨日の失態を忘れているのか。あるいは、そもそも失態だと思ってないのか。
そして、そんな彼女をとんでもない形相で睨みつける人が一人――ティーネである。しばらくは「さん」付けで呼んでいたんだけど、むず痒くなるからと、呼び捨てにすることを進められた。
まあ、そんなことはどうでもいいか。
とにかく、ミリアを見つめる目がヤバい。おそらくお酒は入っていないはずだけど、完全に〈目が据わって〉いる。
「なぁ、ティーネ……そろそろ機嫌を直してくれよ。いいだろ? お前、ミリアに勝てなかったんだから。シュンのことだって認めたんだから、何の文句があるんだよ?」
ミリアの隣で、ずっと説得に当たってるのはヴァスである。ミリアをカーマインに入れるため、何としてもティーネを納得させるつもりなのだろう。
だったら、右手に持ってるジョッキは置いたほうがいいと思うけど。
はぁ……ここはボクも協力するべきか。
「あの~ティーネ……さん?」
「ティーネだ。呼び捨てでいいって言ったろ? 聞いてなかったのかい?」
うぅ……いきなりのジャブだよ。なるべく穏便に話がしたいんだけどなぁ。
そういうボクの気持ちを察したのか、ティーネはため息を吐く。
「ふぅ~……別に怒っちゃいないよ。あんたにも、ヴァスにもね。ただ、『あの女に負けた』っていうのは気に入らない……あのままなら、あたしは負けちゃいなかったんだよ!」
「そうは言うがなぁ……シュンが横から飛び込んでなけりゃ、お前、今頃は真っ黒コゲだっただろうが」
たしかに。
あの時のミリアは、まったく手加減する気がなかったみたいだった。例のスキル……え~っと、〈えくすてんど・えれくとろ〉だっけ? あれを喰らったら、多分ティーネの命はなかったはずだ。
「ま、負けないとしても、勝つのは難しかったんじゃないかな……結構、強力な法術? を使ってたみたいだし」
いくら事実でも、あまりハッキリと言えば角が立つ。そういう意味では、ヴァスの言い方は、ティーネの気持ちを逆撫でしかねない。
そこで、ボクはフォローを入れた……つもりだったけど、それでも気に入らなかったらしい。
「負けてないってことは、勝ってたかもしれないってことだろ! あの女が何か、仕掛けてくるのはわかってたのさ! あそこまで強力だとは思わなかったけど……邪魔さえ入らなきゃ、凌ぐ方法はあったんだよ!」
ティーネはそう言うと、ツカツカとミリアのほうへと歩いていく。やはり物凄い目つきで睨みつけるが、ミリアは一切動じない。むしろ、彼女の周りにいたカーマインのメンバーが引いてしまっている。
「おい、あんた……ミリアとか言ったな? あたしのこと、覚えてるかい?」
「覚えてるかぁ? う~ん、どちら様でしたっけぇ? ちょっと覚えていませんね~」
ティーネは舌打ちをする。それも大きな音で。周りにいたカーマインのメンバーは、二歩後ろに下がった。緊迫する空気。お気楽に酒を飲み続けるミリア。
なに、この構図?
「あたしはね、あんたがカーマインに加わるの、認めてないんだよ!」
「そうなんですかぁ。でも~、シュン様が入られるなら~、ワタシも入りますよぉ。ダメって言われても~、困るんですぅ」
それを聞いて、ティーネはミリアの正面の席にドカッと座る。そして、ミリアが手にしているグラスをひったくると、そのまま一気に飲み干した。
「ぐびっぐびっぐびっ……ぱはぁ~! だから、あたしともう一度勝負しな! あたしよりも〈飲める〉っていうなら、文句は言わないよ!」
お酒の飲みっぷりを競うってことか。まるでオッサン同士のケンカみたいになってきた。
それを聞いたヴァスは、止めに入った。。
「ちょっと待て、ティーネ! おまえ……そんなのは勝負にならねぇぞ! いいか、ミリアさんはなぁ……」
「ダメだね! これ以上の妥協はナシだよ! この条件が飲めないっていうなら、今すぐ荷物を纏めて出ていってもらうからね」
ティーネはヴァスの制止を一蹴。それでも、彼は食い下がろうとした。
「いいか、お前……よく聞けよ? ミリアさんはな……」
「いいですよぉ! 飲み比べ~、面白そうじゃないですか~。それで納得していただけるなら~、いくらでも飲みますよぉ」
ヴァスの言葉を遮り、ミリアはティーネの申し出を受け入れた。
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