第3話
「なんだテメェは! 横からしゃしゃり出てくるんじゃねぇ!!」
モヒカンはフードの男を掴もうとしたが、ひらりと避けられてしまう。バランスを崩し、そのまま壁に激突する。
「おいおい、独りが寂しいからって、何も壁に求婚するこたぁねぇだろ?」
フードの男の一言で、酒場の酔っ払い達が大笑いを始める。かくいうボクも……笑いを堪えるのが大変である。
モヒカン男が振り返ると、その顔は打ち付けた跡と、怒りで血が上っているせいで真っ赤。今にも噴火しそうな火山のように、頭から湯気が出ているみたいに見える。
「こ、ここここの俺様をバカにしやがって! 一体誰だか、わかってんのかぁ!!」
モヒカン男は全体重をかけて、フードの男へとタックルを放つ。見かけ以上に俊敏で、今度は避けられそうにない。
「知るかよ。むしろ、この街にいて、俺を知らねぇヤツがいるってのに驚きだぜ?」
クルンッ! ドッッスウウゥゥゥゥゥン!!
自分の倍はあるだろうモヒカン男を、フードの男は見事な一本背負いで投げ飛ばす。同時に、彼の顔を隠していたフードが取れ、中から美しい青色の――毛並みが現れた。
「うわっ、に、人間じゃない? お、オオカミ?」
そう、狼だ。頭が狼の男。いや、よく見れば手や足からも青い毛並みが見える。二足歩行してはいるけど、体は狼のものだ。
「いいぞぉ! さっすがはヴァスだぜ!」
「なんだよ、もう終わりか? もう少し粘ると思ったんだがなぁ」
「しゃあねぇだろ! おめぇらも知っての通り、俺が強すぎるんだからよ! ほれ、騒がしちまった詫びだ! 親父、連中に一杯ずつ、俺のおごりで!」
ヴァスと呼ばれた狼男がそう言うと、酒場にいた連中から歓声が湧き上がった。
なんというか、ずいぶんと自意識過剰だな、この狼人間。まあ、助けてもらえたのには感謝するけど。
ボクは立ち上がり、とりあえずお礼を言おうと、ヴァスと呼ばれた狼男に近づこうとした。ところが、彼はボクのほうを見ず、ミリアのところに歩いていく。
「ケガはなかったかい、お嬢さん?」
「ふぁい? ええっと~、アニャタは誰れふかぁ?」
ダメだ、もう本当に酔いつぶれていらっしゃる。
「あの~すみません、助けていただいて……」
「ああ、やっぱりだぜ。アンタ、最高にキレイだ! まさに、俺の探してた相手はアンタだったんだ!」
ちょっと、この狼! 完全にボクのこと無視してるじゃないか!
「あの~ちょっと、聞いてますか~? もしも~し?」
「俺はもう、アンタにゾッコンだぜ! 魂を奪われちまったのさ。だから頼む、俺と結婚してくれ!!」
そう言って、狼男はミリアの手を持ち、小さく口づけをする。
どんだけキザなんだ!
と、心の中でツッコミつつ、当のミリアに目を向けてみると……。
よだれをたらしながら、机の上に突っ伏し、気持ちよさそうに眠っていた。
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