第2話

「なんれれすか~? いいじゃないれふかぁ、ヒック! 世界征服しまひょうよぅ。せかひを救うためなんれふからぁ! おじは~ん! お酒三本ついかれ~」

「って、一体どれだけ飲むつもりなの!! 呂律が回ってないじゃないか!!」

 気づいてみれば、ミリアは飛んでもない量のお酒を飲み干していた。机の上には空き瓶が八本……いや、さっき店主のおじさんが下げたのが十本以上あったから、二十本は飲んでる。このお酒がどのくらいの強さかは知らないけど、普通の人間が短時間でお腹に入れていい量じゃないよ!

「らいりょうふ、でふよ~ヒック! ぜんれん~酔ってないれ~ふ!!」

「いや酔ってるよ! メチャクチャ酔っ払ってるって! ああもう、ここにいたらいつまでも飲んでるでしょ! お金出して! ここから出るよ!」

 ミリアの財布がどこかにあるはず。そう思って、ボクは申し訳ないと思いつつ、彼女のバックを探そうとする。ところが、ミリアが動き回るせいで、あらぬところに手が触れる。

「ちょっと~、シュンひゃま、なにをするんれふかぁ! ひょういうことは~、昼間にしてらいけらいんれふよ~」

「そうじゃないって、もう! 動かないでよ、探せないだろ!」

 くぅぅ! ここが異世界じゃなくて、酒場じゃなくて、人目のないところだったらよかったのに……いや、エロいことをしたいからじゃないよ!

 自分に言い訳をしつつ、必死でカバンを探して、何やらコインの入った布袋を見つける。おそらく、これがこの世界のお金のはずだ。

 それを持って、お店の主人のところへ行こうとした時である。急にボクの体に黒い影が落ちてきた。

 大柄な男が一人、上から見下ろしている。

「おうおうおう! な~んで酒場にガキがいるんだぁ!! ここはションベン臭い子どもが来る場所じゃねぇぞ?」

 まるで相撲取りみたいな……いや、それよりもずいぶんとだらしない体をした男だ。なぜか、モヒカンみたいに、頭の真ん中にだけ髪の毛が生えている。

 男の一言で、酒場の連中は大笑いだ。どうやら、彼の冗談はここの酔っ払いたちにはツボだったらしい。

「いやぁ、ボクは単なる付き添いで……もう帰りますから、すみません」

 ボクは軽く頭を下げて、勘定を済ませようと歩き出す。また山賊の時みたいに、後ろ襟を掴まれるのではないかとビクビクしたが、そんなことはなかった。

 ホッと安心したが、その後が問題だった。

「なんだ、この姉ちゃん。酔いつぶれて眠っちまってんじゃ……おお? 何だなんだ、スゲェ美人じゃねえか!! こいつは……介抱してやらねぇとなぁ、げっへっへ!!」

 ああ、もうヤダ。この世界の男っていうのは、発想が全部ソレしかないのか。

 キレイな女性を見たら、とりあえずスケベなことを考える……まではまぁ、ボクも変わらないけど。それを口に出したり、行動に移したりするのが早すぎるだろ!

「あの~大丈夫ですから。ちょっと飲み過ぎただけで……すぐに帰りますから、心配はいりません。ホント、ご迷惑おかけしてすみません」

 ボクは男の後ろから声をかけつつ、ミリアのそばに行こうとした。

 グイッ!!

 すると、体が急にふわっと宙に浮く。モヒカン男が胸倉を掴み、ボクを持ち上げたからだ。

「ちょ、ちょっと……何するんです、かはっ!」

「お前、この姉ちゃんの恋人か? 悪いがな、今からこの女は俺様のもんだ。わかったか?わかったら、さっさと出ていきな!」

 ブンッ! ドスーンッ!

 ボクの体は投げ飛ばされ、酒場の床に叩きつけられる。

 痛っ……くはないんだけど、ちょっとびっくりした。さて、これはどうしたものだろうか。おそらく、この男をボクは倒すことができる。それも特殊なことはせず、ただ一発殴ればいいはずだ。

 ただ、問題はその時、この男がどうなるかって問題。どうやら、ボクはこの世界では、相当強い状態らしい。全力で殴ろうものなら、モヒカン男が無事に済むかわからない。だからといって、このままミリアが連れていかれるのを見逃すのも寝覚めが悪いし……。

「おい、そこらにしときな。女を無理やり力づくでどうにかしようなんざ、男のすることじゃねえぜ」

 ボクがどうしたものかと考えあぐねている時、フードを深々と被った男が、モヒカンとミリアの間に立ち塞がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る