第二章「その姿、人にあらず」

第1話

 グビッグビッグビッ!

「ちょ、ちょっとミリア。いくらなんでも飲み過ぎじゃない? 酔っ払っちゃうよ!」

「大丈夫で~す。ワタシはこれくらいでは~、まったくぅ、酔っ払いませんからぁ」

「はぁぁ……最初に訪れるのが酒場っていうのは、定番って言えば定番だけど。多分きっと、こういう意味じゃないよね」

 ミリアの特殊な力でワープしてきた先――そこは商業都市〈リィンバーム〉。異世界エクスフィアでも有数の巨大都市だという。多くの人や物、情報が行き交う街であり、『リィンバームで揃わないものはない』と言わしめるほどの場所らしい。

 色々と興味深いものは多かったが、それらを見て回る前に、ミリアはなぜか酒場へと足を向けた。

 ボクは遠慮しようとしたが、強制的に同伴させられて……既にミリアは一升瓶ほどの大きさのボトルを三つ開けている。その飲みっぷりたるや、酒場にいる他の人間が驚いて、囃し立てるほどだ。これじゃ、目立って仕方がない。

「あのさ、ここじゃ落ち着いて話ができないんだけど」

「はなし~? 話がしたいんですかぁ? いいですよぉ、何でも聞いてくださ~い! あ、おじさ~ん、おんなじのをもう一本いただけますか~」

 まだ飲むのか! とにかく、まともな会話が成り立っているうちに、聞くことは聞いておかないと。

「あのさ……ボクに、その……世界征服、だっけ? できると思ってるの? ただの高校生のこのボクに」

「シュン様が~元の世界でぇ、どういう立場だったかはしりませんが~、エクスフィアでは~征服者として~十分な才能があるんですよぉ」

「そう言われても……ボク自身は特に何も変わってないぞ」

 ボクは自分の体を見回してみる。おかしな感覚がする場所はないし、変な角が生えたり、翼が出てきたりもしていない。もちろん、尻尾だってない。

「見た目の問題じゃ~ないんですよぉ。そうですねぇ……これを見てくださ~い」

 ミリアは腰の後ろのほうへと腕を回す。どうやら、そこにもバックのようなものがあるらしい。

 彼女が取り出したのは、一冊の小冊子。大体、日本のパスポートほどの小さな本である。

「これはぁ、スキルガイドっていう、特別なアイテムです~。最後に触れた人の~身に付けている〈スキル〉や~〈アビリティ〉が~確認できる優れものなんですよぉ」

「能力を確認できるアイテム、ね。ステータス画面を見るようなもんか。それで、そんなものを取り出してどうするのさ?」

「シュン様~、これを持ってみてくださ~い」

 ミリアはスキルブックを差し出す。何かいかがわしい仕掛けが……とも思ったが、ボクを騙したいなら、森の中でやってるはずだ。わざわざ人目の多いところで、面倒を起こす理由はないだろう。

 というわけで、ミリアの差し出したスキルブックを手に取ってみた。

 ドスンッ!

 ボクはスキルブックを、テーブルの上に落としてしまった。なぜかって? さっきまで小さな冊子だったものが、辞典みたいに分厚くなったからだ。

「おっも!! なんだよ、これ……急に重たくなったぞ!」

「は~い。それだけ~シュン様の能力が多いってことですぅ。ワタシの~十倍はありますねぇ! 予想以上で嬉しいですぅ」

 マジか。

 異世界に呼び出されて、世界征服してほしいなんて言われて、ちょっとビビっていたけど……すごい能力があるとか言われると、急にウキウキした気分になってきた。

 そうなると気になるのは、具体的な能力だ。

「さてさて、ボクの能力とやらはどんな感じなのかな?」

 スキルブックを開くと、最初の一ページ目から、能力の表記がある。

 ページ毎に、能力名、能力の種類と効果、効果範囲、習得難度や使用条件など、能力に関わるあらゆる記述が見られる。基本、一ページで能力が一つ書かれているらしい。

「うーん、防御力上昇、攻撃力上昇に体力上昇。属性耐性に打撃耐性、斬撃耐性……ああ、これのおかげで剣が効かなかったのか。というか、なんか基礎能力に関わるものが多くないか?」

「それってすごいことなんですよぉ! これだけのアビリティが揃ってたら~、ほぼ死にませんからねぇ。もう、不死身って言っていいくらいかもぉ。あ、おじさ~ん! おんなじのあと二本くださ~い!」

 ふむ、確かに。〈耐性〉とかいうのは、ゲームとかだと特殊な種族とかが持ってるものだしな。そういう意味では、本当にスゴイらしい、今のボクは。

 だけど、こういう体質みたいな能力だけじゃ面白くない。もっと、こう……『使える』能力が欲しいなぁ。

 ボクはスキルブックをどんどんめくっていく。すると、前のページとは明らかに違う表記のページを見つける。

「え~っと、なになに? フレイムボルト、コモンスキル、炎の球を対象にぶつける。効果範囲は対象一体。習得難易度は低級……そうそう、こういうのがいいんだよ。これはあれかな? 魔法みたいなヤツかな?」

「まほう? よくわからないですけど~、『コモンスキル』は一般的な技能のことですねぇ。習得方法をなぞればぁ、誰でも身に付けられるスキルなんですよぉ」

「なんだ、そうなのか。まあ、それを初めから習得してるんだから、それはそれでいいけど。それじゃあ、もっと先のほうに……おっ!」

 ほら、あった! えーっと、これはユニークスキル? あるじゃん、特別そうなの。でも、あれ?

「あのさ、このページ。赤い字で大きく『保留中』って書いてあるんだけど、これって何?」

「それは~あれですねぇ。まだ~シュン様は、『征服者』になっていないので~使用ができないって意味ですよ~。あ、おじさ~ん! 空き瓶を下げてもらえますか~、あともう一本追加してくださ~い」

 そこからさらに先のページを覗いてみるものの、ほとんどが赤字の『保留中』ばかり。むむぅ、やっぱり今のままだと色々な制限が付くのか。

「なんか、ちょっと残念な気分だなぁ。せっかくレアアイテムを手に入れたのに、使用できるキャラがいない、みたいな。いやまぁ、だからって世界征服なんてしたくないし」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る