第3話

 トンッ! ズザザザァァァァ!

 ゴチンッ!!

 ボクは女性を抱きかかえながら、地面に倒れ込む。同時に、ハゲ男は勢い余って、顔面を地面に打ち付けた。

「ああもう! なんで逃げないの、キミは!」

「あ、もしかして~ワタシいまぁ、ピンチでしたかぁ?」

「どう見てもそうだったでしょ? あの人たち、山賊だよ? 襲われてたんだよ? もしかしたら……いや、もしかしなくても、アイツらに乱暴されるところだったんだ!」

「乱暴、ですか~? でも、今はぁ、アナタのほうが~乱暴かもしれませんねぇ?」

 なぜか頬を赤らめる女性。一体何を言って……。

 むにゅうぅぅぅ……ふにふに。

 あれ? 何か右手におかしな感触が。柔らかいんだけど、適度に弾力があって。それでいて温かい……。

 ゆっくりと視線を女性の顔から、下へと向けていく。ボクの右手は、女性のたわわな乳房を鷲掴みにしている。

 むにむに。

「ひゃぁん!! こんな山の中でぇ……大胆ですねぇ?」

「ご、ごごごごめんなざい! いや、不可抗力だけど……ボク悪くないけど。いや、やっぱりごめんなざい!」

 急いで女性の胸から手をどけ、すぐに立ち上がる。

「おい……テメェ、この野郎! 鼻が……鼻が曲がっちまったじゃねぇか!!」

 背後で恨めしそうな声がする。振り返ると、ダラダラと鼻血を出しながら、こちらを睨んでいるハゲ男が見えた。

「しまった、逃げ損ねた」

 やっぱりこうなった。他人を助けようとすれば、自分に火の粉が降りかかるのはわかってたのに……。どうして彼女を助けてしまったのだろう。自分の判断が、今さらながらバカバカしくなってくる。

 だが、こうなっては仕方がない。ハゲ男から美人を見てはしゃいでいた姿は消え、ボクへの怒りを隠す様子がない。

「殺してやる……殺してやるぞ、このガキがぁぁ!!」

 シャキンッ!

 ハゲ男は腰にぶら下げていた剣を抜く。おお、これが本物の剣か……などと感心している場合ではない。その剣先は、確実にボクに向けられている。

「あの、え~っと。ちょ、ちょっと待って! いきなりそれは……もう少し話し合いを」

「うるせぇぇぇぇ!! シネェェェェ!!」

 男は勢い任せに剣を振り回す。怒りで錯乱しているのか、素人のボクでも見切れる適当な振り方。おかげで何とか避けることができた、が。

「え? あ、うわっ!」

 後ろに下がりながら避けていたら、まだ倒れたままだった女性の脚に躓いてしまう。そのまま転び、ボクの頭は彼女の胸の上に落ちた。

 ポヨンッ!

 幸い、柔らかなクッションのおかげで、ケガをせずに済む。だが、問題はそこじゃない。

「へ、へへへ! お前を殺したらなぁ、その女は俺が可愛がってやるよ! 死ぬまでなぁ!」

 ハゲ男が剣を高々と振り上げる。

 せっかく落下死を免れたと思ったら、今度は切り殺されるのか……。

「今度こそ死んだな。確実に」

「だいじょ~ぶですよぉ」

 ボクのぼやきに対して、女性は気の抜けた声でそう言った。慰めにしては適当すぎるだろ、それ。

「死にさらせぇぇぇ!!」

 ハゲはボクの頭にめがけて思いきり剣を振り下ろす。さすがに恐ろしくなり、ボクは目を瞑ってしまった。

  バキィィィィンッ!! グサッ!

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