第一章「使命は世界征服」
第1話
落ちる。
上空数千メートルはあるだろう場所から、身を投げ出している状態。なのに、なぜか恐怖はなく、頭がハッキリとしていることに驚いた。
ボク――二階堂俊は、ついさっきまで学校の教室にいたはずだ。それが突然、一瞬にして空の上に放り出されてしまった。
ふと、宇宙人に誘拐されたかとも考えた――まぁ、それでも理解不能な出来事なのは確かだけど――が、そうじゃないのはすぐに理解できた。理由は実に簡単だ。
空に太陽が三つあるから。
この時点で、ここが地球じゃないとわかる。実際、地面へと目を向けると、世界地図でも見たことがない形の大地が見えてくる。
「これがいわゆる、異世界転生? いや、向こうで死んでるわけじゃないから、転生はおかしいのか。じゃあ、異世界召喚?」
と、独り言を呟いてみるが、召喚された直後に落下死するなんて話は聞いたことがない。いや、それでは本当に『お話にならない』から、実際にあっても語られたりはしないのか。
まぁ、どう転んでも、ボクはこのまま御陀仏になるのは間違いない。ずいぶんと呆気ない人生だったな。
地面が近づいてくる。さぁ、あと数秒でボクの命運も尽きるだろう。せめて最後に、腹一杯のエクレアが食べたかったなぁ……。
ズッッッドーーーーーーーーンッッッ!!!
とてつもない爆発音がする。土煙が舞い上がり、まるで爆弾が炸裂したかのように……あれ?
「え~っと? 死んで……ない?」
猛スピードで地面に叩きつけられたにもかかわらず、ボクは傷一つ負ってはいなかった。それどころか、身に着けていた服にさえ、ダメージが見られない。
「げほっげほっげほっ!! うげぇ、口の中が土っぽい……」
舞い上がる土埃が口に入って気持ち悪い。どうやら、幽霊になったというわけでもないらしい。
「やりましたぁ! ようやくぅ、お会いできましたねぇ!」
土煙の向こうから、声が聞こえてきた。この声は……聞き覚えがあるような?
「ようこそ~、我らが大地ぃ〈エクスフィア〉へ~!」
思い出した。
この声は、ボクが教室で聞いた幻聴だ。この声を聞いた直後に、ボクは空に投げ出されたんだ。つまり、声の主こそ、この状況を作った張本人だろう。
ボクは煙をかき分けながら、声のするほうへと足を進める。
「ちょっとさ、これって一体どういう……」
煙の向こうから姿を現したのは、見たこともないほど――美しい女性だった。
透き通るような白い肌。金色の長い髪を、後ろで大きく三つ編みにし、純白の服は、古い絵画に出てくる女神のような装いである。大きな丸メガネは、普通の高校生がかければダサいだけの代物だが、その神秘的な美しさを引き立てているから不思議だ。
手に大きな杖を持ったその女性は、ボクに微笑みかけながら、声をかけてきた。
「お待ちしておりましたぁ。ずっとぉ、お会いしたかったんですよぉ!」
「え、えぇ? あ、はい! そうですか。それはあの……光栄です!」
いや違う、そうじゃない!
その女性があまりにもキレイだったせいか、一瞬頭が真っ白になり、訳のわからない返答をしてしまう。だが、ここはきちんと事情を聞かなければ。
「あの~、つかぬことを伺いますが……あなたがボクをここに連れてきたんですか?」
「はい! ワタシがアナタを~、こちらに召喚したんですよぉ!」
召喚って言ったよ……この人。
やっぱり異世界召喚ってヤツでした。まさか、マンガやラノベの中の出来事が、よりにもよって自分なんかに訪れるとは……。
「ということは、何かボクにお願いがあるってこと……なのかな? なぁんて」
「よくわかりましたねぇ。そうなんですよ~。アナタにお願いしたいことがあるんですぅ」
当然と言えば当然だ。わざわざ違う世界の人間を呼び出して、「観光を楽しんでください」なんて話になるわけはない。
「実はぁ、アナタにはこの世界を~、救っていただきたいんですぉ」
おおっと、これはストレートに来た。世界を救うなんて、まさに王道ファンタジー作品そのものじゃないか。
だけど、そのお願いは飲めないなぁ。
「悪いんだけど、ボクはそういうの無理だから。そんな世界を救うなんて大それたこと……」
「いいえぇ! アナタなんですよぉ。アナタしかぁ、このエクスフィアを救える人はぁ、いないんですぅ!」
まぁ、そうなりますよね。
「いや無理だから。そんな世界を救う勇者だの、英雄だのには、絶対になれないから」
「はい~? いえいえ~、別にぃ、勇者とか英雄に~、なってもらいたいんじゃないですよぉ?」
「え? いやだって、ボクに世界を救ってほしいって……言ったよね?」
なんだろう、この人。つい十秒前に言ったことも忘れたのか? 変に間延びした喋り方といい、ちょっと頭が弱いのだろうか?
「は~い、世界を救ってもらいたいんですぅ。そのために~、アナタには」
「ボクには?」
「世界征服を~してほしいんですぅ!」
なるほど、そう来たか。
「うん、ごめん。絶対に無理だわ」
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