異世界救済には世界征服が正解らしい

五五五

プロローグ

「なぁ聞いたか? 工藤のヤツ、竜崎美玲に告白したってよ!」

 クラスメイトからのどうでもいい報告。しかも、今回は他人の恋愛事情と来たものである。

「知らない、関係ない、興味がない」

「またそれかよ……お前さぁ、健全な男子高校生として、それはいかんと思うぞ」

 他にどう答えろと?

 同級生の誰かが、同じく同級生の女子に告白した……その話に驚くとすれば、告白した方か、された方に恋でもしてなければ無理だろう。ちなみに、ボクは竜崎美玲は好きじゃないし、当然男にも興味はない。

 憮然としたボクの表情を読み取り、友人――神谷は、ニヤニヤと笑ってみせる。

「本当はさ、気になってるんだろう? 竜崎美玲って言えば、この学校のアイドルだ。狙ってる男は山といる。かく言う俺だって、付き合えるもんなら付き合いたいぜ。お前だってそうだろ? あ、もちろん工藤は撃沈な。無理だろ、あのガリ勉野郎じゃ。どう考えても釣り合わない」

「キミ、人の話聞いてた? 興味ないってば。他人の恋愛話をする暇があったら、ボクは今日発売の少年ステップの内容を知りたいね。そういえば、前回の『トリップオアトリック』の謎解き、最高だったよな?」

 恋愛トークにマンガの話題で返すと、神谷は大きなため息を吐き出す。心底呆れている様子だ。

「あのな、マンガの話もいいけど、もう少し現実に目を向けたほうがいいぞ。こっちのほうが面白いことがたくさん……」

 キーンコーンカーーンコーン!

 チャイムが鳴る。

 神谷はボクを一瞥すると、もう一度小さなため息を吐いてから、自分の席へと戻っていた。

 現実のほうが面白い?

 とんでもない! 世の中はつまらないことで満ちてるじゃないか。余計なことに首を突っ込めば、そこから返ってくるのはロクなものじゃない。他人の恋愛事なんて、関心を持つだけで、どんなことに巻き込まれるやら。

 そういうことには興味を抱かないのが一番だ。

 ガラガラガラッ!

 教室の扉が開き、教師が入ってくる。

「起立っ! 気を付け! 礼!」

 学級委員の号令に従って、立ち上がり、頭を下げてから、再び席に座る。

「はい、それでは前回の続きから始めます。教科書の……」

 教師の指示通りに教科書を開いてから、ボクは窓のほうに目を向けた。

 窓際の席というのは、とても気分がいい。ちょっと窓の外を見れば、教室のような息苦しい世界から開放される。

 空は青いし、雲は白い。

 授業が無駄だとは思わないけど、今のボクには必要性がわからない。適当に聞いて、適当に覚えておけば、きっとどうにかなるだろう。

 変に勉強ができれば目立つし、まったくできなければやっぱり目立つ。だから適当に、適当に。

「やっとぉ見つけました~」

 ハッとする。

 聞き覚えのない声が響いてきたからだ。驚いたボクはすぐに振り返った。

 まさか、幽霊!?

 そんな不気味な予感がしたものの、周りを見回してみても誰もいない。ホッと胸を撫で下ろす。

「なんだ、気のせいか」

 小さく呟いた時、ボクはおかしなことに気づく。

「誰も……いない?」

 そんなはずはない。だって、ここは教室だ。

 さっきまで一緒に授業を受けていたクラスメイトがいた。教師だっていた。それが今、ボクの視界には存在していない。

 いや、それどころじゃない。

 教室なら当然あるべき、机も、イスも、黒板もない。むしろ、壁も天井も床さえもない!

 次の瞬間、ボクは自分がどこにいるのかを知る。

 正確には、どんな状況にいるのか、だ。

 そこは上空数千メートルの空中。ボクは猛スピードで、地面に向かって落下している最中だった。

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