第二話 サインペン

 俺はサインペン。真っ黒なボディに丸い頭が特徴だ。活躍するのはもっぱら春。「学生」と呼ばれる人間は桜が咲くころになると教科書の一新を強要されるらしく、俺はいちいち新しい本たちに主人の名前を書かなくてはならない。これはとても酷い制度だ。だって、毎年「一回も開かれなかったページがあったの! 信じられる!?」という本たちの悲痛な叫びを、嫌というほど聞いているからね。

 そして、そんな俺の出番は、なぜか七月になって急増した。


 「……ふっ……はぁ」


 仕事内容は簡単。キャップを被ったまま、ただゆきの手に身を任せているだけだ。


 「あぁっ……」


 彼女の下着越しに性器を撫で続ける。

 二週間前から彼氏の「けんと」やらとうまくいっていないらしく、ストレスやら性欲やらが溜まったゆきは、自慰行為で発散することが増えた。その姿は実に甘美で……、とてもじゃないが見ていられない。

 ああ、他の文房具仲間にからかわれたキャップのおかげで、まさかこのようなお役目を頂戴するとは。

 けんととの仲たがいの原因は、どうやら彼らの年齢差にあるらしい。日記担当の黒ペンによると、ゆきが「受験生」の称号のせいで忙しくなり彼との時間がとれないことに、彼が怒ったそうだ。

 しかし、世の中にはゆきと同学年でもその称号を賜っていない人間もいるらしく、どうやら多少の選択権はあるようだ。にも関わらずあえていばらの道を突き進むっていうんだから、うちの主人はなかなかにマゾヒストのようだ。

 寝床の上では彼に対して、かなりのサディストだった気がするのだが。

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