幕間 戦う教会


          *


 『戦う教会』……人はその場所をそう呼んだ。広大な敷地は全て鉄格子で囲まれ、屈強な衛兵が常備されている。傷ひとつつかぬよう特殊な魔法が施された壁。たとえ、軍隊に攻め込まれたとしても、数年間籠城できるほどの備蓄。


 なにより、教会の周りには、数万を超える墓標が存在し、そこには、ヘーゼン=ハイムが葬った魔法使いの亡骸が埋まっていた。


「……天国には行けないな」


 窓からそれを眺めるたび、自らの罪深さに業を感じざるを得ない。


「なにを言っているんですかヘーゼン先生。むしろ、誇るべきでしょう」


 ロイドは隣で偽らざる心根を晒す。ここにいるのは、みな史上最強の聖闇魔法使いに逆らった者たち。ただ、愚かな弱者であったと彼は断じる。


「未だ……正しかったのか、私にはよくわからないのだよ」


 善人ぶるつもりはない。ただ、己の信念にしたがった結果で、後悔はしていない。しかし、生を摘むとは、可能性を摘むこと。彼はその類稀な力で幾万のそれを潰してきたのは純然たる事実だ。


「僕にはわかりませんね。年寄りの愚かな回顧録は聞くに耐えない」


「……それより、来るのか?」


「ええ……臆病者以外は」


「……そうか。ライオールがいないか」


「クク……別に僕は彼とは言っていませんよ」


 愉快そうにロイドが笑う。


「……」


 幸か不幸か、ヘーゼンの弟子たちは彼に心酔している。高弟たちは、みな類稀な魔力を持っている者たちばかり。その中でも、傑出した力を持つ4人。彼らはそれぞれ得意な属性を持ち、その一属性に置いてヘーゼンクラスの力を持つ。


 四聖と、彼らは呼ばれていた。


 入口の扉が開くと、そこには1人の男が立っていた。


「ヘーゼン先生! お久しぶりです」


 意気揚々と話しかけてくるのはリザルト=エンブレ。炎の魔法を得意とする魔法使いであり、清く正くを信念とする熱血漢である。


「すまないな。こんなところまで呼び立てしてしまって」


「なにを言ってるんですか! 敬愛する先生のお役に立てるなんて光栄の限りです。俺にできることなら、なんだってします」


「……恩にきる」


「しかし……ロイド! ゼデスとベガはまだ来ないのか。先生への忠誠心が足りないんじゃないのか!?」


 腹立たしげにリザルトは叫ぶ。


「……単純バカめ」


「なにか言ったか?」


「いえ。後の2人も間もなく来ますよ。なにぶん、別の国にいましたのでね」


 不機嫌そうにロイドが答える。


「まったく奴らは……こんなことじゃ先生の後継などとてもじゃないですが務まりませんね」


 そう言いながら快活に笑う熱血漢。


「……そうだな」


 少し躊躇したが、ヘーゼンは頷く。馬の前に ニンジンをぶら下げるように、己の後継を餌にして、彼は弟子たちを戦地に送る。その事実に振り払えないほどの罪悪感を感じざるを得なかった。

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