買い物


 首都ウェイバールの繁華街の中でも、最も賑わいを見せるプシット通り。路上では大道芸人が各々の技を魅せ、演奏家が思い思いの音楽を奏で、あらゆる食べ物の匂いが通行人の鼻孔をくすぐる。


「相変わらず喧噪高い通りだね。しかし……不思議なものだ」


 アシュは五感を澄ましながらその不協和音を楽しむ。いや、むしろ、それこそがこの場に調和を与えているとまでーー


「ガチャガチャしてて、うるさいですね!」


「……君ほどじゃない」


 まったくと言っていいほど趣を解さないミラを一蹴して、通りの出店とリストを交互に眺めながら回り始める。


「アシュさんアシュさん、アレ美味しそうじゃないですか?」


「……」


 キースク牛饅をウットリと見つめながら、裾を引っ張ってくるノーテンキ執事にレル札の束を一束手渡す。


「こ、こんなに!? そんなに好物なんですか」


「そんな訳がないだろう。いいかい、なるべく羽振りよく買ってくるんだ。他にも、いろいろと欲しいものを買っていい。貴金属、ドレス、好きなものをね」


「ええっ!? で、でも私……」


「ゴチャゴチャ言わない。仕事だ。なにも君のために支払うんじゃない。そうする必要があるからやるだけだ」


「う゛―――っ、わかりました」


 ミラは嬉しそうに、店の方に行って並びだす。


「さて……」


 見たところ、この通りには欲するものは売ってはいない。しかし、ここにはものだけでなく売人も揃っている。羽振りのよい客を見つけ、騙そうとする者。希少な品を売る者。希望としては後者であるが前者が引っかかってくれても別に問題はない。


 ミラの方を注視していると、キースク牛饅10個。


「どれだけ食いしん坊なんだ、まったく」


 そんなことをつぶやきながら、次の行動を見守る。女性の欲するもので言えば、次は貴金属あたりか。いや、ドレス。まあ、どちらにしろ、貧乏性なところは発揮せずになるべく高価なものを買ってきて欲しいものだが。


               ・・・


「はぁ……はぁ……お待たせしました」


 キースク饅10個。テラスチ飴20袋。背クラ魚の缶詰15缶。ニンジン10本。豚肉3キロ。その他諸々……


 全部食べ物。


「……アホか―――――――――!」


「なんでも欲しいもの買っていいって言ったじゃないですか!?」


「言ったさ! なんでもいいんだよなんでも! なんでそれで食べ物ばっかり買ってくるんだよ!?」


「大好物なんです!」


「食欲だけか! 宝石とかドレスとか、他にも欲しいものあるだろう!?」


「今、お腹減ってるんです!」


「知るか! 今から行って宝石とかドレスとか買ってきたまえ!」


「わかりました!」


「ちょ……君、な、なにを」


「持っててください。後で食べましょうね。あっ、キースク饅は先に食べててもいいですよ」


 アシュの周りにさっき買った食べ物を囲むように並べて、ミラは全力で走って行った。


「……」


 まるで、食材の一つになった気分だった。




 

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