なんなら
性悪魔法使いとの出会い話(無駄話9割)を終えたミラは、すっかり冷めたホットミルクを豪快に一気飲みした。
「っぷはー! と、言うわけなんです」
「……」
さすがのライオールも、絶句である。
そんな中、アシュがおもむろに数枚のレル札を取り出し、彼女の前に置いた。
「ミラ君。おつかいを頼む。このリストに書いたものを買ってきてくれ」
「はい! わかりました」
「……」
返事だけはいいな、と心の声を全力で噛み潰し、
「文字がわからなかったら、通行人にでも聞きなさい。絶対に買ってくるまで、戻って来ちゃ駄目だよ。なんなら、永遠に戻ってこなくても、一向に構わない」
「またまたー! じゃ、行ってきます」
アシュの本気を冗談として受け取り、少女はバーを出て行った。
「随分と……変わった子ですね」
ライオールの表情は、苦笑い半分、といったところだろうか。
「さて、邪魔がいなくなったところで質問を続けよう。もう、彼女が135個ほど質問に答えただろうから、連続して質問するよ」
「……はは」
穏やかな青年は、終始、苦笑い。
「先ほどの聖王ライーザとやらは何者なんだ?」
アシュが監禁されたのは8年前。少なくともそれまでに、その名が彼の耳に入ることはなかった。
「彼がバージスト聖国の王位に就いたのは5年ほど前でしょうか……大陸統一を掲げ、隣国のサールツ国、キモミ王国に攻め込み、見事打ち破りました」
「5年で2国……確かに驚異的なスピードだね」
通常は小国でも1国を滅ぼすのに20年はかかると言われている。
「まだ領土は小さいですが、次は超大国であるレスラーンを喰うと言われています。まあ、さすがに先の2国のようにはいかないでしょうけど」
「そうか……それで、先生はバージスト聖国に力を貸していると?」
「いえ。元々ライーザ王の家庭教師をしておられたので、今までは助言のみでした。しかし、次の戦からは本格的に弟子たち戦地に送る準備をしているようです」
それだけ、レスラーン国は強大だ。人材、富、力において圧倒的な差があり、いかに有能な王がいても、埋まることはないだろう。ヘーゼンの弟子を送り込んでも、戦況は五分といったところか。
「……しかし、随分と他人事だね」
ライオールはヘーゼンの一番弟子だ。本来なら、自らが率先して任務にあたってしかるべきである。
「それが、側近の少年にどうやら嫌われているようでして。勝手に、丁重にお断りを入れたそうです。まあ、私がいなくても有能な弟子たちは山ほどいるでしょうから」
「……」
恐ろしい男だな、と改めて思う。
その側近とやらも、この温厚な青年の意図するよう動かされている。
「……しかし、あの方もお若いな。全てを手に入れておきながら、まだ見果てぬ夢を追いかけている」
ヘーゼンがアシュにいつか漏らしたことがある。『なぜ、戦争は無くならないのだろうなぁ』と。
「しかし、なぜ争いというものは無くならないのでしょうかね」
ライオールはつぶやく。
「クク……そんなこともわからないのかな」
「……アシュさんには答えがあると?」
「ああ。それはね」
闇魔法使いはカクテルを飲み干し、
かつての恩師に激昂された言葉を紡ぐ。
「誰もが戦争をなくしたいと願っているから、戦争がなくならないのさ」
「……恐ろしく歪んだ考えですね」
「そうかな?」
そんな時、バーの扉が、大きな音で開いた。
見ると、ミラが息をきらしながら満面な笑顔をかざしていた。
「アシュさーん! この文字ってなんて読むんですか?」
「……やれやれ。無能な執事が戻ってきたので、不本意ながら、僕は行くよ」
そう席を立ち背中を見せ、
「君はアホかーーーー!? 『聞け』といったじゃないか通行人にーーーー!」
激昂しながら叫ぶ闇魔法使いの背中は、ライオールには少し楽しげに映った。
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