第17話 届け屋の思い
公園のベンチで二人並んで座る。
「懐かしいなぁ。正やんによく似ておるわ。」
あなたのほうがじいちゃんに似てますよとの声は出ないまま差し出されたハンカチで涙を拭った。
「眠そうじゃのう。喧嘩しておるようなことを正やんは言っておったが…。そうか。何も伝えずに逝ってしまったのか。」
正やんと言って懐かしむご老人。じいちゃんの名前は大坪正和で、たぶん古い友人なんだろう。
「お前の親父さんには引き継がれなかったのが残念だが…。よいよい。正やんの意志はちゃんと受け継がれそうじゃ。」
涙が落ち着いて改めてご老人を見るとどうして似てると思ったのかと思えるほどにじいちゃんには似ていなかった。ただ笑った顔がどことなくじいちゃんを思い起こさせるのは変わらない。
「紙ひこうきはなぁ。届け屋の思いで飛ばすんじゃ。」
「思い…。」
「そうじゃ。この思いを本人に伝えてやってくれという届け屋の思い一心でな。」
僅かに記憶のじいちゃんの言葉とリンクする。届け屋の強い思いじゃと言っていた。
「俺、ここ最近になって変な声が…。」
俺の不安げな声にも変わらない笑顔を向けてくれた。
「それはお主が一番よく分かってるはずじゃ。なんの声なのか。思い浮かぶものが正解じゃて。」
「でも…。」
「大丈夫じゃ。お主に何も残さずに逝ってしまうような正やんではなかろうて。親父さんに聞いてみなされ。」
灯台下暗しとはこのことを言うのだと思った。父さん…。父さんとも男同士のせいか多感な時期を過ぎてもそのままあまり話さなかった。最後に話したのは紙ひこうき届け屋になった時に引き継ぐ仕事の話だけ。そういえばその時に父さんが言っていた。
「つらくなったらじいちゃんがお前の為に遺してるものがあるから。お前はじいちゃんと同じ目をしてるよ。」
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