第16話 正やんとじっちゃん

「なんでも未だに本物の紙ひこうきで思いを届けてる人がいるらしい。」

 いつもの紙ひこうき届け屋の不毛な会議の後に聞こえた何気ない噂話。寝不足の頭に届いた話はただの噂だと思うのにじいちゃんの面影を追うようにその噂の人の情報を集めた。

「本当に会いに行くのか?俺もお前のじいちゃんは大好きだったけど。」

 裕太にだけは話したが気持ちは変わらなかった。会ってがっかりするかもしれない。大人になった今の方が分からなくてもいい色々が分かって、もしかしたらいい思い出のじいちゃんさえも嫌になってしまうなもしれない。だけれど会いたい衝動は抑えられなかった。

 県境にある小さな町。本物の紙ひこうきを送る人はそこの紙ひこうき届け屋をしているらしかった。電車を乗り継いで降り立った先はのどかな風景が広がる無人駅。誰にも会えなかったらどうしようと思うような田舎道を歩く。

 不意に笑い声が聞こえた。声の方へ行くと道沿いにある公園。子ども達に囲まれたご老人がいた。その風景は自分が子どもの頃に見たものと同じ。自分もご老人を囲む子ども側で、囲んでいるご老人が老人というほど年はまだ取っていなかった自分のじいちゃんで。

 歩み寄ると気づいた子どもが声をかけてきた。

「お兄ちゃんもじっちゃんに何か聞きたいの?思いを届けてくれる紙ひこうき屋さんだから何でも知ってるよ。」

 紙ひこうき屋さんか。届け屋だけどね。何でも知ってると自分が子どもの頃に思っていたのと同じ。本当のところはここの町の人達の事は何でも知ってるの間違いだけどな。

「あぁ。もしかして正やんの孫か?」

 優しい微笑みを向けてくれたご老人に何故だか涙が溢れた。俺のじいちゃんと同じ目をしてる。優しい思いやりに溢れた目。その目を見なくなって生きていた頃も見れなくなって…何年経つだろう。

「兄ちゃん。つらいの?悲しいの?」

 子ども達が心配してくれても「うん。うん」としか言えなかった。

「ほれ。みんなは暗くなる前にお帰り。兄ちゃんはじっちゃんが話を聞いてやるから。」

 子ども達は「じっちゃんが聞くなら大丈夫だ」「兄ちゃん頑張れよ」などと口々に言いながら帰って行った。

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