第18話 遺してくれたもの

 家に帰ると父さんが俺に一冊の本を渡してくれた。じっちゃんから何か連絡があったのかもしれない。小さく「ありがとう」と呟いて部屋に逃げた。

 深呼吸をして厚いハードカバーを開いた。深い青色のそれを開くと本だと思っていた物はじいちゃんの直筆が並んでいた。

『久人へ

 お前の父さんは受け継げれなかったものをお前が受け継ぎそうだ。つらいこともあるかもしれない。だが、久人なら大丈夫だと信じている。何かに迷った時はこの本を手に取りなさい。』

 じいちゃんまで本と言う。じいちゃんのたまに出るいい加減さを思い出して笑みをこぼした。ページをめくると目次までついていて一番最初の『声が聞こえた時』を開いてみた。

『気づいていると思うが、それが町のみんなの声だ。それが届け屋に届く思いだ。それをやみくもに受け取っていては自分が参ってしまう。気持ちを集中させて聞きたい時だけ聞こえるように、一人一人聞こえるようにするのだ。』

 細かく書かれた手順に従って集中する。

『怖がらず町のみんなの声だと心を落ち着かせるのだ。そして目を閉じる。』

 怖がらず落ち着いて…。そして目を閉じる。

 聞こえてくる声は様々な声。でもそれはもしかしてと思っていたことが確信に変わった今。町のみんなの声はあの端末を見ることと何ら変わりなかった。

 目を開けてもう一度目を閉じる。今度は違うことを心で唱えた。

 今は静かに休みたい。

 すると端末を閉じたみたいに声が聞こえなくなった。ふぅと息をついて、それから分厚いページをパラパラとめくった。何ページにも渡って書かれた最後のページに目を奪われる。大きな文字で書かれた俺への激励。

『久人ならやれる。じいちゃんの孫だ。』

 俺は大きくなってから、じいちゃんと同じ目をしてると言われるのが嫌で嫌で仕方なかった。だから父さんに「じいちゃんがお前の為に遺してるものがある」と言われた時のことも記憶の彼方に葬り去っていた。

 そんな俺に…じいちゃんと話そうともしなくなった俺に…。じいちゃん…ごめん。ごめんなさい。嗚咽を漏らさないように声を殺してうずくまった。ごめん。本当にごめん。心の中で何度も繰り返しながら。

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