第13話 向いている

 千佳と会う時は公園が恒例になった。今日も紙ひこうきを飛ばし合う。送り主が分かっているのに恥ずかしくなるような褒め言葉の数々。褒めること前提だとしても恥ずかしい。それなのに必ずその後に心が温かくなった。

 何通もやり取りした後に何気なく届いた紙ひこうきに千佳へ書こうとするペンの動きが止まった。

『久人くんは紙ひこうき届け屋に向いてそうだよね。』

 じいちゃんとのつらい思い出が蘇る。

「久人は紙ひこうき届け屋に向いておるぞ。」

 言われた時は歓喜した。しかしそれが今ではつらい思い出だ。

 考えあぐねて紙ひこうきを送った。

『俺、フリーターだからさ。紙ひこうき届け屋にはなれないよ。』

 心無い嘘。しかし千佳に真実を伝える勇気はなかった。『その紙ひこうき届け屋なんだよ』とは。

 千佳から再び紙ひこうきが届く。

『褒めたつもりだったんだけどな。紙ひこうきだから返事はしちゃダメって言ってたくせにー。』

『向いてそうってどんなところが?』

『人に流されないところとか?また質問。これ紙ひこうきの意味ある?』

 クスクス笑った千佳が俺の隣に並ぶ。今日も手の中にはいっぱいの紙ひこうき。大切な宝物入れにしまってくれるのだろうか。

「千佳は誰かに紙ひこうき送ったことないの?」

 俺の言った紙ひこうきが紙ひこうき届け屋の紙ひこうきだと理解したような千佳が俺を見上げた目を丸くした。それから目を伏せて何か考えるような素振りになってから小さな声がした。

「高校生くらいかな。思いを届けなくなっちゃった。思いって綺麗な思いばかりじゃないものね。」

 何かあったのかもしれないし、なかったのかもしれない。即座に答えない答えは言葉を選ばれているようだった。

「久人くんも使ってないんでしょ?同じだね。」

 眩しい明るい笑顔を真っ直ぐ見れなくて目をそらす。曖昧な「あぁ。そうだね」だけを返して。

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