第12話 他の町から

 その日は久しぶりに他の町の紙ひこうき届け屋から連絡があった。町を越えて思いを届ける時は連絡し合う決まりになっていた。送る側と送り先、双方をちゃんと知った上で送ることが義務付けられていた。

「紙ひこうき届け屋の向井です。大坪さんの町に住んでおられる三上あいさんに立川晴也の思いを届けたいのですが。」

「三上あいですね。お待ちください。」

 端末に情報を出す。三十二歳、独身。恋人あり。恋人とは順調。

「お待たせしました。どのような思いですか?」

「思いは『恋人がいるから諦めようと思ったのに諦められない。あいさんが素敵過ぎて。』です。彼は実世界では気持ちを伝えたことはありません。」

 概ね良さそうだ。恋人がいても、はたまた結婚していても思いは伝える。好きです。は、既婚者には配慮してぼかして伝えることもあるけれど。誰かに好意をもたれるのは嬉しいはずだから。あいさんの場合はこれで揺らぐなら恋人はそれまでということで。

「送っていただいて構いません。」

 電話口から安堵している気持ちが漏れ伝わってくる。

「恋人がいるだけで異性の思いを伝えてもらえない町もあるので助かります。晴也いい奴なんで。」

 町の人に思い入れを持つのは普通だ。人となりを知り、思いを届ける手伝いをすれば自ずと町のみんなが大切になる。そう思ってない奴もいるみたいだが、向井さんみたいな人が紙ひこうき届け屋をしていて嬉しくなる。

「恋人がいるので上手くいくといいと言うことは出来ませんが、好意は伝わるといいですね。」

「えぇ。ありがとうございます。」

 少しだけ癒されて、もう一度端末に向き合った。一人でも多くの人に幸せを送ろう。気持ちを新たに思いをチェックした。

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