第9話 紙ひこうき
「ね。ちょっと付き合って!」
いたずらっぽい顔をした千佳が楽しみにしていたはずのケーキを頼むのも忘れ、食事だけ済ませて店を出た。
着いたところは文具店。そこで千佳はメモ帳とペンを手を取る。楽しそうな千佳に俺も倣ってメモ帳とペンを手にした。
「久人くんはこっちでしょ?」
手の中に飛行機が描かれたものを渡された。なんの意味があるのか分からないまま持っていたメモ帳は棚に返して渡されたメモ帳を手に千佳とレジに並んだ。
次は公園に来た。紅葉が始まっている公園はひらひらと赤や黄の葉っぱが揺れながら落ちる。落ち葉の上を歩けば秋のにおいと、すぐそこまで来ている冬を感じさせた。
「恥ずかしいからこっち見ないで。」
ベンチに肩を並べて座って千佳を見ていたら注意された。仕方なく千佳に背を向けて座り直した。
「恥ずかしいって何が?」
「いいから。まだこっち見ちゃダメ。」
楽しそうな千佳にまぁいいかと待つことにした。
「そのままでいてよ?」
立ち上がった千佳が離れていくのが分かる。何がしたいのか未だに分からないまま待っていると髪の毛にカサッと音がした。振り向くと微笑む千佳が離れた所にいて俺の下の方を指差している。指されたところに視線を移すと…紙ひこうき?
紙ひこうきは落ち葉に半分埋もれている。すくい上げるように手に取って紙ひこうきを開いた。紙ひこうきの折り目がついているメモ帳の中側に可愛い文字が並んでいた。
『自己紹介の時、助けてくれて嬉しかった。』
フッと笑みをこぼして「ちょっと待ってて。あ、千佳もあっち向いてて。」と伝えた。
先ほど買ったばかりのメモ帳を取り出してペンを走らせた。なるほど最初に持っていたメモ帳は縦長で買ったメモ帳は正方形だった。あれ?長方形でも紙ひこうきは折れるのにと一人笑う。
書き終えて紙ひこうきに折る。丁寧に丁寧に角が立つように。そして千佳へ目掛けて紙ひこうきを飛ばした。真っ直ぐ千佳を目指して飛んでいく紙ひこうき。コツンと当たって千佳が振り返った。
千佳は紙ひこうきを拾い上げ、開いた中を見た。プッと笑っているような千佳が大きな声で訴えた。
「これ褒めてないよ!」
千佳へ書いた紙ひこうきには『思ったより背が小さくて驚いた』と書いた。褒めてるんだけどなぁ。それが可愛かったとは書かなかったけど。
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