第10話 宝物入れ

 何度も紙ひこうきを飛ばしあった。

『硬派のイケメンだよね。』

『控えめの天然だよね。』

『口が悪いのに優しいよね。』

『人見知りなのにお節介だよね。』

『久人くんの褒めてない!』

『紙ひこうきに返事って出来たっけ?』

『この紙のひこうきは何でもありなんです。』

『それ紙ひこうきじゃなくない?』

 何度か飛ばしあった後に千佳はベンチに戻って「はー楽しかった」と満足そうだった。手の中にあるたくさんの折り目がついたメモ帳は袋に入れている。

「どうするの?それ。」

「宝物入れにしまっておこうと思って。」

「そっか。」

 千佳との会話は心がほんのり温かくなって遠い記憶を呼び起こす。子どもの頃も本物の紙ひこうきは大切に大切にお菓子の缶にしまっていた。懐かしい。

「懐かしいなぁ。私さ。子ども頃、お母さん相手によく紙ひこうき届け屋さんごっこしてた。」

「うん。俺も。相手はじいちゃんだけど。」

「おじいちゃんっ子だったんだ?」

「うん。まぁね。」

「また紙ひこうき飛ばそうね。」

「そうだね。今度は学校の校舎みたいな所から運動場、目掛けて飛ばしたいな。」

「どっちが遠くまで飛ばせるか競争?それも子どもの頃にしたなぁ。それって遠くまで飛ばせた人が…。」

「「紙ひこうき届け屋になれるって思ってた。」」

 声が重なり合って、あははと笑った。

 しばらくの沈黙が流れて、その後に少し寂しそうな声で千佳が言った。

「今はさ。なんか紙ひこうきに夢が無くなっちゃったよね。」

「そうだな…。」

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