共生

「お前はとても美味そうだが」

 半透明の木肌を背にし、僕へと視線を寄越したから。

「腹を下しますよ」

 僕は『彼女』へ笑みを返した。


 酸っぱさも苦さもなくて優しいばかりのこの街には、ぼんやりとした印象ばかりが残っている。

 誕生を喜び老衰に涙した。教会で学び小麦を作り。穏やかな気候に不作はない。

 夜は朝までぐっすり眠った。夢もなく、見ることもなく。

 喰われていると、気づきもせず。

「失敬な。これは共生だぞ」

『彼女』は謳うように言葉を紡ぐ。

「安全を提供しよう。生活を保証しよう。争いもなく餓えに苦しむこともない」

 代わりに。

「少しばかり、夢を貰う」

 遥か頭上で梢がそよぎ、淡い輝きが木肌を覆う。

『彼女』は満足そうに微笑んだ。

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