遠き憧れの地に向けて

歯ぎしりついでに歯が抜けた。

だるい身体をようやく起こし、手の平へと吐き出した。


ついに、きた。


背筋に悪魔の吐息を感じる。鋭利な爪が俺の首にかかるのを。


 *


交代のドラが響く。足が痛い。手が痛い。体中、覚えもないのに青あざが。

船が揺れる。堪えきれずに転がりながら、ようやくの思いで食事にありつく。

「喜べ、ごちそうだ」

料理長のくぼんだ目に、力ない笑みを返して。

一滴も零さぬようにとスプンを動かす。


 *


「インドはまだか」

黒い足先、黒い手指。支える背筋のその軽さ。

「飲め」

肉片と黒い破片が浮き出たスープを口元へと押し付ける。

「インド、は」

不意に力の抜けた背を、そっとベッドへ寝かせ直して。

俺は薄紅い涙をこぼした。

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