秘密の幸せ

 立て付けの悪い戸が開かれた。

「来たぞ」

 一斉に立ち上がる。瓶に蓋をしムシロを被せ、幾らでもある木材を上へ下へと積み重ねる。

 小振りの瓶が蔵の隅へと置かれた頃、乱暴に戸が叩かれた。


「密造酒は没収である」

 まだ若い駐在は、得意そうに瓶を担ぐ。

「お上の決めたことでな」

 緩い敬礼をして見せて、老駐在は戸を閉めた。


 囲炉裏の中で火が躍る。ぼたん鍋がぐつぐつ煮立つ。

「お疲れ」

 老駐在は無遠慮に敷居をまたぎ。迎える声に笑顔を見せる。

 炉端へ寄れば、出された升には白濁した。

「ええんかよ」

 さっそくと升を口でお迎えする。

 含めば舌に甘く絡み、飲めば芯から温まる。

「……こん酒を、飲めんなる方が堪えられん」

 どぶろくは密造酒の代名詞。

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