エピローグ
レオンは薄暗い寝室に入るなりベッドにぼふりと倒れこむ。
外界から閉ざされた地下百階の寝室では呼吸音さえもはっきりと聞こえた。クスリと笑ったつもりが、思いのほか笑い声が部屋に響いて思わず口を手で覆う。
他に誰かいるわけではないが、レオンは壁の薄いアパート暮らしが長かったこともあり、大きな声を上げた時の癖が今でも咄嗟に出ることがある。
しかし、ここでは隣の住民は皆無だ。
地下百階と言う深さなのだから、生き物がいるかも疑わしいだろう。意味のない行動を取る自分に違う意味で笑みがこぼれた。
口から手を離して仰向けに寝転がり、薄暗い天井を見つめて物思いに耽る。
カヤとの同盟は成った。
戦力的には心もとないが、それ以上にプレイヤーに出会えたことへの喜びにレオンは少し浮かれていた。
カヤには悪いが裏方に回ってもらうことも既に了承済みだ。流石に初めて接触した協力者――プレイヤーを失う愚は犯せない。
幸いにもカヤの従者は帝国周辺の冒険者ギルドに入り込んでいる。少なくとも情報収集に関しては、カヤの方が一枚も二枚も上手なのは間違いない。
(情報収集はカヤに任せて問題ないだろう。カヤとニナのフレンド登録も済ませたし、これで何時でも連絡が取れるはずだ。同盟を結んだ以上、情報を隠すような真似はしないと信じたいが、まだ出会って半日も経っていない。全ての情報を包み隠さず教えるかは微妙なところだな。それはこれからの信頼関係にもよるか――)
レオンも自分の情報を全てさらけ出したわけではない。
拠点の場所も教えていなければ、自分や従者のレベルも伏せたままだ。恐らくカヤはこの屋敷が拠点だと思い込んでいるだろうが、それはそれで好都合だとレオンは小さく頷いた。
カヤとて拠点の場所や従者の情報を全て話したわけではない。全てをさらけ出すにはお互い早すぎた。
レオンはごろんと体を半回転させると、顔を深く枕に沈めた。
(あとは今後の方針か、王国から西は教国だけだからなぁ……。やはり帝国の周囲に目を向けるべきか――)
広大な領土を誇る帝国には幾つもの国が隣接している。
北には公国、東には自由貿易都市、南にはエルフの住む樹海。レオンとしてはエルフに興味があるのだが、この世界のエルフは排他的で人間を寄せ付けないと報告を受けている。
帝国とエルフの間で争いが絶えないことも、エルフが人間を毛嫌いしている要因の一つだ。
ままならないものだと、レオンは顔を上げてしかめっ面を見せる。
(エルフとは会ってみたいが、さてどうしたものか――)
ゲームの世界にもエルフはいるため、さして珍しいとは言い難いが、それはあくまでゲームのエルフだ。プレイヤーであれば誰もが本物のエルフに会いたいと思うはず、と言うのがレオンの見解である。
他のプレイヤ―がエルフに接触している可能性は十分に高いと思われた。
レオンがエルフに会いたいのは何も興味本位だけではない。他のプレイヤーの情報を得るために必要だと判断してのことだ。
だからこそ慎重に行動しなくてはならないのだが――
『レオン様、お休みのところ申し訳ございません。お話があるのですがよろしいでしょうか?』
レオンが頭を悩ませていると不意にアインスからの通話が入る。アインスの声が暗いことに、レオンは何事かと体を起こして身構えた。
『構わん、要件は何だ?』
『問題が発生いたしました。サタン及び、その配下と通話がつながりません』
『通話がつながらない?』
『はい。何者かと交戦中と思われます。メニュー画面から従者のステータスをご確認ください』
レオンは急いで
戦闘中なのは分かる。もともと教国の戦力を分散させるために、魔王サタンと配下の十二魔将を向かわせているのだ。
教国の軍勢と戦うことはレオンの想定の範囲内である。アインスから交戦中という言葉が出ても不思議ではなかった。
気になるのは通話がつながらないということだ。ゲームの中では通話を遮る魔法やスキル、アイテムは存在しない。
嫌な予感がした。
【EMERGENCY】
メニュー画面を開いて真っ先に視界に入ったのは、片隅で点滅する赤い表示だ。
「エマージェンシーコードだと――」
ゲームをやり始めた時には頻繁に見てきた表示が目の前にある。
従者のHPが三割以下になった時に表示される警報システム。
直ぐに従者のステータス画面を開いてレオンは絶句した。
サタンと十二魔将のHPが軒並みレッドゲージに突入していたからだ。
急いで通話をつなごうとするも、アインスの言葉通り通話が一切つながらない。それどころか居場所の追跡すら出来なくなっていた。
サタンたちのHPが変動しているのを見てレオンは声を荒げる。
『アインス! ガリレオにサタンの居場所を探らせろ! 大至急だ! 戦闘職の従者をフル装備で玉座の間に招集しておけ! 私も直ぐに向かう!』
『はっ!』
通話を切るなりレオンはベッドから立ち上がり拳を強く握りしめた。
HPがレッドゲージに入るほどの戦闘だ。交渉の余地すらない相手とみて間違いないだろう。
レオンはインベントリから最高レアの装備を出して次々と身につける。
「どこのどいつか知らないが、俺に喧嘩を売ったことを必ず後悔させてやるぞ」
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粗茶「二章はこれで終わりです。三章は半年前、魔王様御一行が教国に向かったところまで遡ります」
サラマンダー「僕は出ますか?」
粗茶「出ません。出たとしても拷問される役か食材のどちらかです」
サラマンダー 「((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」
粗茶「それとしばらくの間、こちらの作品の更新頻度を落として他の作品の続きを書こうと思っております。ご不満もあるかもしれませんがご了承ください。ちょっと飽きてきたので気分転換がしたいです……」
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