王国㊿
「落ち込んでいるところ悪いが情報の交換をしないか? できれば他のプレイヤーに関して知っていることを教えてほしい」
「――そうね。でも私も何も掴んでいないのよ。唯一見つけたプレイヤーは貴方だけだし、他のプレイヤ―のことは何も分からないわ。元の世界に戻る手がかりも何も掴めていない。私よりレオンの方が情報を持ってるんじゃないの? 従者の数も多いみたいだし、国の情報機関や冒険者ギルドに従者を潜り込ませたりしてないの?」
カヤの言葉は最だ。
情報が欲しいのなら、情報が集まる場所で従者を働かせればいい。黙っていても、労ぜずして情報を集めることが出来たはずだ。
何でこんな簡単なことに気付けなかったのか、レオンは自分の頭の足りなさを改めて思い知る。
しかし、だからと言って素直に答えるのは躊躇われた。
気付けなかった、分からなかった、そう答えることは、自分は馬鹿だと公言するのと同じだからだ。
レオンはその場を取り繕うため必死で脳をフル回転させる。
「従者が多いと言っても、その殆どが課金の従者だ。他のプレイヤーに直ぐにバレるため、人目に付く場所で働かせる訳にはいかない。私の創り出した従者に至っては、拠点の管理や警備、私の護衛に必要不可欠だ。おいそれと遠くに派遣できるわけがないだろ? まぁ、最近ではあまりにもプレイヤーが現れないため、課金の従者たちにもそれなりに動いてもらってはいるがな」
「――獣人と暮らしているあの妖怪軍団のことね」
「そうだ。よく調べているな?」
「私の従者が勝手に獣人に会いに行ったのよ。その時に天狗の翁と、猫又の鈴音に殺されそうになったって
「――薄々そうではないかと思っていたが、翁たちが出会った仮面の男は、やはりカヤの従者なのか……。まぁ、当然だな。他のプレイヤーの情報がないのだから、カヤの従者以外は考えられないか……。と言うことは――カヤ、お前もしかして帝国に武器を売らなかったか?」
「売ったわよ? 私の拠点は帝国にあるし、生活するにはお金が必要だもの」
レオンはやはりかと落胆した。
情報を集める意味でも、カヤ以外のプレイヤーであればと願っていたが、どうやらそう上手くはいかないらしい。
カヤは「そうれがどうしたの?」と首を傾げていた。その様子にレオンは呆れるばかりだ。
「よく人のことを言えたな? お前も十分戦争に関与しているではないか。今回の戦争でその武器が使われていたぞ?」
カヤはポカーンと口を開けて固まる。
唯一出た言葉は「えっ?」だけだ。その様子からも戦争に使われるとは聞かされていなかったのだろう。尤も、武器の使い道など限られている。人や獣人を殺すか、魔物を殺すか、その程度の使い道しかないはずだ。戦いを有利に進めるうえでも戦争に使わない手はない。
「その様子だと知らなかったみたいだな」
「だって、魔物討伐に強力な武器が欲しいって言うから……」
「私も帝国が嘘をついたとは思っていない。本当に魔物の討伐に必要だったのかもしれないしな。しかしだ。その後に武器を回収できなければ、当然のように他の用途で使うに決まっているだろ? 武器なんてものは、所詮は誰かを殺すための道具でしかないのだからな。人殺しに使われたくなければ、今後は武器の類を売らないことだ」
「――気を付けるわ」
またもやカヤの表情が暗くなる。
落ち込むカヤを元気づけようとしたのだろう。ニナは頬張っていたお茶菓子を紅茶で流し込むと、カヤに対してにこやかな笑みを向けた。
「マスターなに落ち込んでいるんですか? 今度から注意すればいいんですよ。あとこのスコーンも美味しいですよ。早く食べないと私が全部食べちゃいますけどいいんですか?」
ニナは落ち込むカヤを横目にスコーンに手を伸ばしている。
何でこんなに能天気なんだと思う反面、今だけはニナの明るさにカヤは救われた気がしていた。
僅かに笑みを見せるカヤにレオンは水を差す。
「おいカヤ、そう言えばニナがお前は弱いと馬鹿にしていたぞ。主に対する敬意が足りないのではないか? 危機管理を含めて従者を再教育したらどうだ」
レオンの発言を聞いたニナが咽て咳き込む。
「な、なに告げ口してるんですか! 酷いですよレオンさん」
「告げ口をされるような発言をするお前が悪い」
「うっ~、もういいです。腹いせにレオンさんの家のお菓子を全部食べつくしてやりますよ。じゃんじゃんお菓子を持って来てください」
食べつくすと言われてお菓子を持ってくる馬鹿はいない。それでもニナはクッキーを手に取り口いっぱいに頬張り始めた。
そしてニナが否定をしないということは、レオンの発言は事実と言うことでもある。
制裁があるのは自明の理だ。
ニナがカヤの視線に気づいた時には既に遅く、自分の脇腹に拳がめり込んでいた。
「ブァッ」
脇腹に衝撃を受けたニナはクッキーを勢いよく吐き出し、体をくの字に曲げて悶絶する。
その様子を見ていたレオンは、またかと顔をしかめた。
(汚い……)
当然のように吐き出されたクッキーはノインの防御魔法で受け止められ、
カヤは鬼の形相で立ち上がり、ニナのこめかみを拳で挟んでグリグリとこねくり回した。ニナの悲痛な叫びが木霊するが、今のカヤはお構いなしだ。
「私のことそんな風に思っていたのね。私より弱いくせにぃいいいいいいいい!」
「痛いです、痛いですマスター。HPがぁあああ。私のHPが減っていくぅ。レオンさん助けて下さいよぉおおおおおぅ」
カヤがニナにじゃれ合う姿――お仕置きを見てレオンは溜息を漏らす。
「お前らの仲がいいのは分かったが、よくこんな馬鹿を、ニナを冒険者ギルドに入れる気になったものだ。この世界の文字を覚えるだけでも苦労しただろうに――」
カヤは手を止めてソファに腰を落とす。お仕置きが終わり満足したのだろう。こめかみを抑えて蹲るニナを尻目に、カヤの表情は元に戻っていた。
「こう見えて物覚えはいいのよね。他は基本的に馬鹿だけど……」
馬鹿なのは創造主のお墨付きらしい。
(可哀そうに……)
「他の従者も冒険者ギルドで働かせているのか?」
「まぁ、半分はそうかな。国の諜報機関よりも、冒険者ギルドの方が情報が集まるもの。残りの子には私の店を任せたりしてるわ。それとさっきレオンが言ったことに一つ訂正があるの」
「訂正?」
「さっき言ったでしょ? 翁が出会った仮面の男って。私の従者はみんな女性よ」
「ん? 私は男の声だと報告を受けているぞ」
「声を変えるスキルを使ったのよ。あの子も自分の素性が知られるは不味いと思ったんでしょうね」
「そういうことか……。まぁ、同盟を結んだのだ。それくらいの危機管理能力がなくては私が困る。カヤにも今後は気を付けてほしいものだ」
「はぁ、分かってるわよ。私の従者にも言い聞かせるから安心なさい」
カヤも重々承知しているのだろう。言われなくても大丈夫と言葉の端々から伝わてくる。
少し不安ではあるが、余りしつこく言うのも人間関係に亀裂が入る。取り合えず問題ないと判断したレオンは、頷き返して話題を変えた。
「それにしても情報は何もなしか――。初めてプレイヤーに接触できたというのに前途多難だな。そう言えば、カヤの拠点は帝国にあるのだろ? その後の帝国はどうなっているか知らないか?」
「まだ帝国軍は戻ってきてないけど、早馬が飛ばされて敗戦の情報は帝都にも届いているわよ。そのことで帝国の上層部は混乱しているみたいね」
「これで帝国も他国への侵攻を諦めるといいんだが……」
「どうなんだろ。王国や獣人を敵に回すことはないかもしれないけど、帝国は隣接する国が多いから――。ねぇ、レオンはこれからどうするつもりなの?」
「もう少し行動範囲を広げようと思っている。具体的にはまだ何も決めていないが――。私が直接出向くか、それとも課金従者をおとりに使うか、これからじっくり考えようと思う」
レオンの言葉を聞いたカヤは遠くを見る様に思いに耽る。
ニナの言葉ではないが、自分が弱いという自覚はカヤにもあった。
悪意あるプレイヤーがいるかもしれないという状況を踏まえるなら、表立って行動するのは命を失う危険もある。
自分に出来ることを必死で探るが、思い浮かぶのは陰から情報を集めることくらいだ。レオンと比べるまでもなく、出来ることは限られていた。
カヤは自分の弱さを嘆いて思わず肩を落とす。
「私にできることは少ないなぁ――」
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