王国㊼

「あっ! そういえば、ニナさんがレオンさんが来ないって困っていましたよ。何でも話があるそうですけど」

「話だと?」

「もしかしたらSランクパーティーへの昇格の件ではないでしょうか? レオンさんが依頼を全く受けないので、冒険者ギルドもずっと先延ばしにしているようですから」


 ミハイルの言葉を聞いていたガストンが、呆れたように「はぁ……」と溜息をもらした。


「レオン、お前は本当に冒険者としてやっていけるのか? 例え力を持っていたとしても、ギルドに見放されたら終わりなんだぞ?」

「――そうか、私のパーティーはまだ正式にSランクと認定されていなかったな。すっかり忘れていた」

「忘れるなよ! 大事なことだろ?」

「落ち着け赤の他人、今すぐ話を聞いてくるから安心しろ」


 何かを言いたそうなガストンを尻目にカウンターまで来ると、ニナが頬を膨らませてご立腹の様子だ。

 開口一番「なんでギルドに来ないんですか!」と何故か怒られてしまう。


「私も貴族になって忙しいのだ、仕方ないと諦めろ。それより私に何の用だ。もしかしてパーティーランク昇格の件か?」

「それはどうでもいいんです」


 レオンは内心(どうでもいいのかよ!)と突っ込みを入れながら、ニナに問いただす。


「それでは何の要件だ」

「ここではちょっと不味いので取り合えず外に出ましょう。出来れば二人きりで話がしたいので。――じゃあエミー、後はよろしくね」


 ニナは隣に座る同僚のエミーに可愛らしくウィンクをする。

 後は任せたと言わんばかりに、そそくさと席を立つニナを見て、エミーは呆気に取られ「はぁ!?」と思わず口を開けた。


「え、なに言ってんの? ちょ、ちょっと待ちなさいよニナ!」


 ニナはエミーの制止も聞かずにカウンターの外に出ると、レオンの手を取りグイグイと引っ張り出す。

 ミハイルたちも何事かと注視するがニナはお構いなしだ。

 そのままの勢いでレオンをギルドの外に連れ出し、今度は人気のない路地裏に隠れる様に入り込んだ。

 レオンはと言えば、特に抵抗する様子もなく為すがままである。


(二人きりで話すようなこと――。これはもしかして告白か? いや、まて、俺にはフィーアという妻がいる。一夫多妻制の国とは言え、妻に隠れての逢引きは不味いんじゃないのか? 変な噂が流れたらフィーアがブチ切れそうだしなぁ。本当の妻じゃないけど……)


 路地裏の奥、人気のない場所でニナは足を止めた。

 振り替えり「ここなら大丈夫ですね」と告げるニナに対し、レオンの鼓動はひときわ高鳴る。

 客観的に見てもニナは可愛い。容姿だけならレオンの好みでもある。その女性と狭い路地裏で二人きりと言うのは、男心をくすぐるものがあった。

 顔が赤くなっていないか心配だが、鏡を出して確認するような恥ずかしい真似はできない。

 レオンは告白されることを念頭に置いてニナの言葉を待つ。

 しかし――


「では改めて自己紹介をしますね。私は家具工房ファニチャーワークスショップ所属の一人、魔法大工マジックカーペンターカヤ様の従者、ニナと申します。私のマスターがレオンさんとお話がしたいそうです」


 レオンの思考が固まる。


「ふぁに?」


 辛うじて出た言葉はそれだけだ。


「……えっと、レオンさん理解してます? 私はプレイヤーの従者ですよ? お~いレオン、戻ってこ~い」


 固まるレオンの目の前でニナが手をブンブン振る。

 「やぁ!」と目潰しをされそうになるところでレオンは咄嗟に我に返った。素早く腕を叩き落とすと、ニナが腕を掴んで悶絶しているのが見える。


「うおぉおおおお! 腕が、腕が痛いぃぃぃぃ」

「自業自得だ。目潰しをする方が悪い」


 先ほどまでの高ぶっていた感情はどこにもない。

 レオンは直感的に理解する。

 こいつは馬鹿だ――


「それがお前本来の性格か? お前のマスターは苦労してそうだな」

「むっ! 失礼なことを平気で言いますね。私の心は傷つきました。慰謝料として金貨十枚を請求します」


 レオンはインベントリから金貨十枚を取り出し、「ほれ」と地面に投げ落とした。

 ニナは躊躇うことなく地面の金貨を拾い上げて満面の笑みだ。


「うわぁ、レオンさんはいい人ですね。私は大好きですよ」


 さらっと告白されたが何故か嬉しくない。

 ニナがどのような設定かは分からないが、少なくともお金に煩いことだけは見て取れる。

 簡単に買収できそうだなぁ。と言うのがレオンの受けた印象の一つだ。








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