王国㉔

 燃えるような赤い髪の少女は緊張した面持ちで扉の前に佇んでいた。

 敬愛する主に会うのはいつ振りだろうか――

 逸る鼓動を抑えながら目の前の扉にそっと手を添える。と同時に扉は音もなくゆっくりと開け放たれた。

 目の前の玉座に座る主を見て少女の体は火照り熱くなる。

 だがそれをひた隠すように黒いマントと長い髪を靡かせ颯爽と歩みを進た。そして玉座の前で跪くと、主の凛々しい顔を見て歓喜に打ち震える。

 しかも玉座の間には少女と主の二人だけ、自分のためだけに玉座の間に足を運んでくれたのかと思うと、それだけで少女の胸はいっぱいになった。

 しかし喜んでばかりもいられない。呼ばれたということは何かしらの話があるということ。失態を冒した覚えはないがそれでも不安は尽きない。

 少女は頭を下げ神妙な顔つきで主の言葉を待つ。


「そう畏まらずともよい。面を上げよ」

「はっ!」


 少女の真紅の瞳が主の顔を再び捉える。

 喜びのあまり顔が上気し僅かに表情が緩んだ。だが主の前ではしたない態度は見せられない。直ぐに自分の邪念を追い払い気を引き締めた。


「今日はお前に頼みがあって呼んだのだ」


 その言葉を聞いた少女は鳥肌が立つ。

 今まで何の役目も与えられず、もはや私は不要なのではと思うこともあった。それがやっと――

 自ずと少女の手に力が入る。

 先ほどまでの浮ついた気持ちは一瞬で吹き飛んでいた。


「何なりとお申し付けください。この命に代えてもご命令を遂行いたします」

「命に代えてもは余計だ。勝手に死ぬような奴に仕事を任せられん」

「も、申し訳ございません。生きて必ず遂行いたします」


 少女の全身から冷や汗が吹き出る。

 もしこれでお前は必要ないと言われたら――、最も恐ろしいのが敬愛する主に嫌われることだ。

 もしそうなれば生きている価値などない。

 死んでいるのと同じだ。

 少女は必死の形相で懇願するように主を見つめる。その願いが通じたのか許しの言葉が耳に届いた。 


「まぁいいか……。アスタエル王国とレッドリストの和平の話は聞いているな。それに伴い近い将来、ロマリア帝国はアスタエル王国に宣戦布告をするだろう。そしてこの二つの国の争いは、西のサエストル教国にとって願ってもないことだ。必ずサエストル教国はアスタエル王国に侵攻してくる。そこでお前にはサエストル教国を牽制してもらいたいのだ」

「――ど、どういうことでしょうか?」

「分かりにくかったか……。早い話が教国で暴れて軍を引きつけて欲しいのだ。王国に矛先を向けないようにな」


 暴れるのは少女の専売特許である。

 難しい任務ではない。

 しかし――


「それは教国の人間を殺してもよいということでしょうか?」

「――私も少々迷ったのだがな。現状では殺すしかないだろう。調べでは、あの国の民は教皇の洗脳下にある。当然だが国民には洗脳されている自覚がない。しかも長期間に渡る刷り込みで洗脳の解除は難しいとのことだ。相手に損害を与えなければ驚異とは見なされない。人的損害も与える必要がある以上、殺さずとはいかないだろうな」

「畏まりました。それでは適度に人間を殺します」

「――まぁそうだな。多少は、な……。それと教国の首都にある大聖堂には近づくなよ。あそこには強力な結界が張られているらしい。その気になれば強行突破も可能だが、正直なにが出るか分からん。いいか、これはな任務だ。他プレイヤーの存在も考慮して慎重に事に当たれ」

「はっ!」

「では改めて命じる。魔王サタン、お前は配下の十二魔将を引き連れ教国を牽制しろ。方法はお前に一任する」

「畏まりました。必ずやレオン様のご期待に応えてみせます」

「うむ、では頼むぞ」


 最後にそう告げてレオンは姿を消す。

 残されたサタンは笑いが止まらない。初めて与えられた任務はな任務。これで一気に遅れを取り戻せるからだ。

 ここで成果を上げれば好印象を残せる。

 もしかしたら傍に置いてもらえるかも知れない。

 そう思うと胸が高鳴った。だからこそ絶対に失敗は許されない。

 綻んでいた顔が一気に引き締まる。


「必ずレオン様のご期待に応えねば――」







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


粗茶「このあと魔王様御一行は三章まで出ません」

サラマンダー「お払い箱かな?」

粗茶「お前がね」

サラマンダー「( ´・д・)エッ……」




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