エピローグ①

 薄暗い部屋の一室でクライツェルたちは倒れ込む。

 見慣れた部屋の調度品が王都に戻ってきたことを物語っていた。クライツェルは仰向けに寝転ぶと、見慣れた天井を眺めて生還できたことに喜びを噛み締める。

 横に視線を逸らせばヴェゼル、ケリー、ルークの姿もある。誰一人として欠けていないことに、クライツェルは「ふぅ」と、息を漏らした。

 ルークはまだ気を失っているが、しっかりと呼気も聞こえる。あれ程の使い手から全員生還できたことは奇跡と言っても過言ではない。

 クライツェルは天井の張りを眺めてボソリと呟いた。


「あの少女は何者なんだろうな……」


 雷花は今までクライツェルが出会った誰よりも強かった。例え地上で戦っても結果は変わらないほどに――

 クライツェルの言葉に釣られるように、ケリーは少女の動きを思い出して賞賛する。


「あの動きは異常だ。短剣を弾いたときの手の動きが全く見えなかった。人間が鍛えてどうにかなる動きじゃない。あの少女は本当に人間なのか?」

「さぁな……」


 クライツェルはそれ以上言葉が出なかった。少女たちとは出会ったばかりで素性など知りようもない。ただケリーの言うことは一理ある。ヴェゼルの雷玉サンダーボールを受け、防御魔法も無しに無傷など有り得ないからだ。

 それとも何らかの魔道具マジックアイテムで身を守っていたのだろうか?不意にクライツェルはその可能性に思い当たるも、今となっては確かめようもない。


「それより報告をどうするかだ。貴族の馬鹿どもに何を言われることか……」


 クライツェルがこぼした愚痴を聞いて、ケリーとヴェゼルは苦笑する。

 破格の報酬に加えて高額な支度金も既に受け取っている。これで依頼が失敗したとなれば、貴族たちはここぞとばかりに責め立てるだろう。クライツェルにとっては最も頭の痛くなる話だ。


「それほど悲観することもないでしょう。獣人に加担する人間がいることが分かったのです。それだけでも大きな収穫と呼べるのではないでしょうか?」

「確かにヴェゼルの言う通りだが、それで国が納得するかどうか……。それに相手のことは何も分かっていない。あの雷花という少女が嘘をついている可能性もある」

「あの少女が嘘をついていると?私には嘘をついているようには見えませんでしたが。純真無垢といいましょうか、全てをさらけ出しているように見えたのですが?」

「俺にもそう見えたが――いや、もう止めよう。答えが出ない話をしても仕方ない。俺たちはありのままを報告するだけだ。嘘かどうかは国の判断に任せるしかない」


 クライツェルは立ち上がるとルークの巨体を見下ろした。

 回復薬ポーションのお陰で傷も癒えて外傷もない。雷花の言葉に嘘がなければ、一定時間は目を覚ますこともないだろう。逆に言えば、時間の経過で目を覚まして動けるようになるという事だ。

 クライツェルはヴェゼルとケリーに視線を移して今後のことを口にした。報告のことを考えるだけでもクライツェルの気は重くなる。


「ルークが目を覚ましたら容態を聞こう。それで問題がなければ城に出向いて今回の件を報告する。お前たちにも付き合ってもらうからな」


 クライツェルの言葉にヴェゼルとケリーは頷き返す。

 城に出向くのは正直なところ気が引けるが、それでも嫌な役回りを全てクライツェルに押し付けるわけにも行かない。

 ヴェゼルとケリーは互いに顔を見合わせると、仕方ないかと苦笑いを浮かべていた。








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執筆時間がなくてエピローグを全部書けませんでした。

明日もエピローグです。

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