Sランク冒険者㊳
「スキルだと?そんな馬鹿な……」
雷を放つスキルなど聞いたこともない。クライツェルにとって余りに想定外のことが多すぎた。クライツェルに注意が集まる中、ケリーはここぞとばかりにルークの容態を確認する。
周囲に漂う焼け焦げた臭いから、最悪の事態も考えていたケリーであったが、ルークが息をしていることで一先ず安堵した。だがルークは口から泡を吹いて白目を剥きながら気を失っている。目に見える部分だけでも半分の皮膚は焼け焦げ一刻を争う状態に陥っていた。
ケリーは咄嗟に手持ちの
感電させてから連れ帰るとは、そういう意味なのか。と――
「クライツェル、あの攻撃は絶対に避けろ!恐らくだが相手を強制的に気絶させる効果がある。気付け薬を飲ませてもルークの意識が戻らない」
だがクライツェルはケリーの言葉が耳に入らないのか、呆然と立ち尽くしたまま返事をしない。そんなクライツェルの代わりに雷花が言葉を返す。
「気絶だけじゃないんだけどなぁ。同時に麻痺もさせるから、例え目を覚ましても体は動かないよ?ちなみにそれなりの回復アイテムじゃないと、一定時間は治らないから気を付けてね。さて、次は誰にしようかなぁ~」
鼻歌交じりに標的を選ぶ雷花をケリーは鋭く睨みつける。
だが今のケリーはそれ以上のことは何もできなかった。恐らく何十何百の短剣を投げても当たりはしないだろう。足場の不安定な場所で本調子でないとは言え、投げた短剣は簡単に叩き落とせるものではない。それを雷花は見向きもせずに何度も叩き落としている。今のケリーではとても太刀打ちできる相手ではなかった。そのため攻撃を回避することだけに意識を向ける。そうやって時間を稼いでヴェゼルの魔法を待つつもりでいた。
だが、雷花の次の標的は――
「決めた!次は後ろに隠れてるおじさんにしようかなぁ~」
雷花の次の標的はよりにもよってヴェゼルであった。
ヴェゼルはパーティーの頼みの綱、いま倒れたら逃げることも敵わなくなる。ケリーは未だに呆然としているクライツェルに激を飛ばす。
「クライツェル!何時まで惚けているつもりだ!」
その怒声でクライツェルは我に返る。
想定外のことが多々あったとは言え、戦闘中に呆然と立ち尽くすなど何年振りだろうか。相手がその気なら間違いなく命を落としているところだ。クライツェルは雷花を見据えて気を引き締め直す。
「すまない。想定外のことが多すぎて思考が止まっていたようだ」
「しっかりしろ。お前はパーティーのリーダーなんだからな」
クライツェルとケリーはヴェゼルの盾になるように身構えた。
雷花にとっては、これも暇潰しのお遊びでしかないのだろう。態々クライツェルたちの会話が終わり、体制が整うのを待ってから声を上げた。
「じゃあ行くよ!しっかり躱してねぇ~」
だが直後にクライツェルとケリーの背後からヴェゼルの声が聞こえてくる。それは今の二人が一番待ち望んでいた言葉だ。
「お待たせしました。飛びますよ!」
雷花とヴェゼルの声がほぼ同時に響き渡る。
「〈紫電〉」
「[
雷花の紫電が指先から放たれた瞬間、クライツェルたちの姿は一瞬にして消え失せていた。同時に標的を失った紫電は空を切りながら彼方に消える。
それを見た雷花は瞬きを繰り返し、少し間を空けてから――
「えぇえええええ!!逃げるなんてずるいよ!風花どうしよう!」
「雷花は少し落ち着くです。風花がちゃんと
「おぉ!流石は風花だね!よし、じゃあ直ぐに追いかけよう」
「でも勝手に持ち場を離れたら駄目なのです。先ずは撫子に報告するです」
「そっか!じゃあ報告してから捕まえに行こうか」
「はいです」
善は急げとばかりに雷花は撫子に通話を繋げた。
『あ!撫子?雷花だよ。実はさぁ――』
雷花の報告を受けた撫子は城の一室で深い溜息を漏らしていた。
本来の予定ではクライツェルたちを捕縛し、
だが逃げられてしまってはそれも敵わない。
記憶の消去を断念した撫子は、事の顛末を報告するためレオンに通話を繋げた。
そして、その報告によりアスタエル王国が揺れ動くことになろうとは、この時はまだ誰も知る由もなかった――
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次で一章が終わります(予定)
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