Sランク冒険者㊲
二人と会話ができるといっても、それなりに距離はある。主な攻撃はケリーの投げナイフとヴェゼルの魔法が主体となるが、それでも二人を仕留められるとは限らない。特に
攻撃魔法が続かないことを考えると、クライツェルとしては最初の攻撃でどちらか一人を確実に仕留めておきたかった。ケリーとヴェゼルが仕留め損ねた場合を想定して、クライツェルはマントの下で腰の短剣にそっと手を添えた。命中精度は高くないが、クライツェルにも投げナイフの心得はある。
二人が会話のため視線を外したその刹那、ケリーがいち早く動き出す。
両手に投げナイフ専用の短剣を持つと、目にも止まらぬ動きで腕が振り下ろされ交差する。
真っ直ぐ二人の頭部に直進する短剣を見て、誰もが殺ったと思っていた。
しかし……
「ああ、もう、邪魔!いま撫子と話してるんだから邪魔しないでよ」
雷花は短剣を見ることもなく指先で弾き飛ばす。
風花に至っては何故か短剣が頭部に当たる直前で止まっていた。
だが次の瞬間、今度はヴェゼルの魔法が二人を襲う。
「これならどうですか![
着弾地点から一定範囲を巻き込む
雷花は
ケリーも次の短剣を放つが結果は変わらず。雷花は指先で短剣を弾き飛ばし、風花に投げた短剣は当たる直前で止まっている。
風花は空中で制止する短剣を手に取ると、手に持ってまじまじと眺め、小首を傾げて投げ捨てた。
「何がしたいんです?」
攻撃を攻撃とも思わない発言に、クライツェルたちの中に絶望感が過ぎる。雷雲の中に落ちて行く短剣が、まるで自分たちの未来を暗示させているような気さえしていた。
想定外の事態にヴェゼルが背後から囁きかけた。
「どうします?」
クライツェルの答えは決まっている。
この二人はやばい、地上ならまだしも足場のない空中では戦いにすらならない。クライツェルに残された選択肢は一つしかなかった。それは――
「逃げるぞ」
「分かりました。時間を稼いでください」
ヴェゼルはそう告げると、腰に下げた道具入れから
そうしてる間に雷花と風花も動き出す。二人で何やら話し合うと、同時にクライツェルに視線を向けた。
「えっとね。撫子におじさんたちを生け捕りにしろって言われたんだよね。だから大人しく捕まってくれないかな?」
無邪気に告げる雷花にクライツェルは考える仕草を見せた。
そう言われて本気で捕まる馬鹿はいないだろう。クライツェルも時間稼ぎのために考える仕草をしているに過ぎない。
返答のないクライツェルに痺れを切らせたのか、雷花が一際大きな声で呼び掛けた。
「ねぇ!聞いてる?大人しく捕まってくれたら、痛い思いをしなくても済むんだよ!」
「少し聞いてもいいか?どうやって撫子って人と連絡を取ったんだ?」
それはクライツェルのみならずヴェゼルも気になっていた。二人ともこの場から動いていないにも関わらず、なぜ連絡が取れたのか不思議でならない。
ヴェゼルは魔法に集中しながらも雷花の言葉に耳を傾ける。
「余計なことを言うなって言われたから言えないんだよね。そんなことより大人しく捕まるの?」
「ちょっと待ってくれないか?もう少し考えたい」
クライツェルは再び考える仕草をして時間を稼ぐ作戦にでるが、雷花はそれを許さない。頬を膨らませ、「もういいよ」と、指先をクライツェルに向けて無慈悲な言葉を投げ掛けた。
「みんな感電させて連れ帰るから。〈紫電〉」
雷花の指先から青白い雷が迸りクライツェルを襲う。
だが、素早く突き出したルークの盾が雷を遮り、クライツェルへの直撃を防いでいた。胸を撫で下ろしたのも束の間、周囲に焦げ臭い臭いが漂いルークは力なく盾を手放す。
その光景にクライツェルが声を荒らげた。
「馬鹿な!魔法を遮断するオリハルコンの盾だぞ!例え雷の魔法を受けてもルークには伝わらないはずだ!」
「残念だけど雷花の雷はスキルだよ?そんなので防げるわけないよ」
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