Sランク冒険者㊱

 それを見た雷花は頬を膨らませる。


「むっ!じゃあ、今から雷花が証明してあげるよ。周りに雲を作るからちゃんと見ててよ。〈雷雲招来〉!」


 雷花が手を向けた方向に、突如として雷雲が沸き起こる。そのまま雷花がクルリと一回転をすると、周囲は一瞬にして厚い雲の壁に覆われた。

 それを見たクライツェルたちは目を丸くする。中でも一番驚いていたのはヴェゼルだ。目の前の少女が天候操作ウェザーコントロールではなく、初めて見る魔法――スキル――で雲を作りだしたことに開いた口が塞がらない。

 クライツェルたちの驚きの表情を見て、雷雲を呼び寄せた雷花は満面の笑みで胸を張る。


「ねぇ、これで信じてくれた?」

「あ、ああ、信じるよ。雷花は凄いんだな」


 凄いと言われた雷花は満更でもない。「そんなに凄いかなぁ」と、にへら笑いを浮かべ嬉しそうにしている。

 クライツェルも表向きは笑みを見せるが内心では困惑していた。足元や周囲は厚い雲で覆われ何処にも逃げ場がないからだ。

 普通の雲なら中に飛び込んでも大丈夫なのかもしれないが、いま目の前にあるのは間違いなく雷雲である。黒雲の中で光る稲妻を見て、クライツェルは表情を曇らせた。

 上空には青空が広がっているが、浮遊レビテーションでの移動はこの高さが限界である。八方塞がりの中、クライツェルはどうにかならないかとヴェゼルに目配せをした。

 だがヴェゼルは首を横に振る。もし天候操作ウェザーコントロールを覚えていたなら雲を散らすこともできたが、ヴェゼルは天候操作ウェザーコントロールを覚えていなかった。

 抑、天候操作ウェザーコントロールの魔法は上級魔法でありながら、それほど魅力的な魔法ではない。特に冒険者は攻撃魔法や回復魔法の取得を優先するため、覚えているわけがないのだ。

 パーティーの頼みの綱、ヴェゼルでもどうすることもできない。そうなると後は雲を作った本人に消してもらうしかないだろう。クライツェルは満面の笑みを作ると雷花にお願いをする。


「雷花の実力はよく分かったよ。もういいから周囲の雲を消してくれないかな?」


 だが、雷花が返事をするより先に風花の声が響き渡る。


「駄目です雷花!撫子に報告をした方がいいです」

「どうしたの風花?誰も通してないし問題はないと思うけど?」

「この人たちは見るからに怪しいです。撫子の指示を受けた方が絶対にいいです」


 風花の何時になく真剣な顔つきに雷花は了承するしかない。

 頷き返す雷花を見てクライツェルは仲間に目配せをした。こうなっては二人を殺すしかない。本当は生け捕りにしたいところではあるが、相手は手練の可能性もある。下手な手心は仲間の命を危険に晒すだけ、例え少女であっても手加減をすることはできなかった。

 

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