Sランク冒険者㉟

 まさか本当に質問に答えるとは思ってもみなかったが、クライツェルにとっては好都合でしかない。更に情報を引き出すため質問は尚も続けられていた。


「レッドリストに誰も入れないようにか、それは大変だな。じゃあ雷花は上空から誰も侵入しないように見張りをしているわけだ。それは頼まれてやっているんだろ?」

「うん。そうだよ」

「じゃあ、誰に頼まれたのか教えてくれないかな?」


 雷花は腕組みをしながら唸り声を上げる。レオンや拠点のことは他言無用と言われているため話すことはできないが、それ以外のことは特に何も言われていなかった。そのため、雷花は考えあぐねた結果、撫子の名を告げていた。

 

「撫子に言われたんだよ。誰も通すなって」


 雷花の言葉はある意味間違いではない。撫子にも誰も通すなと言われているため嘘はついていないとも言える。

 クライツェルは「撫子?」と、首を傾げ、それが誰なのかを尋ねた。


「撫子と言うのは雷花の上司でいいのかい?」

「上司かぁ。まぁ、そうだね」

「じゃあ、その人は王国や帝国の人間なのかな?何処に住んでいるのか教えてくれたら嬉しいな」

「王国や帝国の人間?違うんだけどなぁ。今はレッドリストで暮らしてるよ」


 種族は人間ではなく妖怪であるため違うとしか言いようがない。そして、今の居住先はレッドリストの中にあるため、雷花はそれも素直に答える。

 だがクライツェルは難しい顔で、「レッドリストで暮らしている?」と、オウム返しのように呟いていた。話を聞いていた他の仲間たちも、思わず信じられないと互いの顔を見合わせる。

 人間が獣人たちの国で生活するなど正気の沙汰ではないからだ。

 クライツェルは雷花の言葉を確かめるように問い直す。


「でもレッドリストで暮らしていると言っても、獣人に見つかったら殺されるだろ?何処か見つからない場所に隠れて暮らしているのか?」

「隠れる?そんなことする必要がないよ。獣人とも仲良く暮らしているからね」

「な、仲良く?襲われたりしないのかい?」

「襲われないよ」


 雷花は「何で?」と、不思議そうにクライツェルを見つめ返す。その仕草はとても嘘をついているようには見えなかった。

 そうなってくると考えられるのは、何処かの国が獣人と手を結んだかも知れないということ。先ずはその国を特定しなければならない。

 それに、これだけの異常気象を作り出した魔術師の数も気になるところだ。

 クライツェルは雷花の問いを笑って誤魔化すと――


「なぁ雷花、君たちは何処の国の人なんだい?」

「う~ん、何処の国と言われても困るなぁ。それには答えられないよ」


 何処の国の人?と、聞かれても、そんな国もなければ人間でもない。そのため雷花には答えようがなかった。

 雷花が初めて口を噤んだことで、クライツェルは国を聞き出すことは困難と判断したのだろう。雷花の口が少しでも軽い内に多くの情報を集めるためにも、即座に話題を切り替えた。


「それじゃあ、違うことを聞こうかな。この異常気象は雷花の仲間が起こしているんだろ?何処にいるのか教えてくれないかな?」

「異常気象?」

「この大量の雲や地上で流れている強風のことだよ。何処かで大勢の魔術師が魔法を唱えているんだろ?」

「なんだそんなことか。雲は雷花が作ったんだよ。風は風花が起こしてるけど?それがどうかしたの?」


 突拍子もない答えにクライツェルは、「冗談が上手いな」と、乾いた笑い声を上げた。

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