Sランク冒険者㉕
レオンらが案内された場所は街外れの一角。
そこかしこに兵舎と思しき建物が立ち並び、多くの兵士が出入りをしていた。冒険者が訪れるのは珍しいのだろう。すれ違う兵士たちは物珍しそうに二度見をする。その中には羨望の眼差しを向ける兵士も少なくない。
流石はSランクの冒険者と言ったところだろうか。王都から遠く離れたベルカナンでも、その名は勿論のこと容姿も知れ渡っているらしい。それだけSランクの冒険者は、憧れや尊敬の対象になっているのかもしれない。
好奇の目に晒されるのは慣れているのか。クライツェルは兵士の視線を気にも止めず、奥へ奥へと歩みを進める。程なくして現れたのは幅の広い大きな建物。そこからは木刀を打ち合うような激しい音が聞こえていた。
目的地に着いたのだろう。クライツェルは不意に足を止める。だが、隣を歩いていたミハイルは建物を見上げ、不思議そうに首を傾げていた。
「クライツェルさん。ここは兵士の訓練場ですよね?ここを借りられるんですか?」
「何だ知らないのか?アスタエル王国では、Aランク以上の冒険者は訓練場を借りることができるんだよ。高ランクの冒険者が行う模擬戦は兵士にとっても勉強になる。国は兵士を強くできるし、冒険者は訓練をする場所を得ることができる。どちらにも利があるから遠慮の必要もない。自由に使っても誰も文句は言わないよ」
「そうなんですね。今まで知りませんでした」
「まぁ、知らなくても仕方ないか。元々メチルの街は国の兵士が少ない。おまけに訓練場もないからな」
「その分、シリウス公爵の私兵団がいますけどね。噂では腕の立つ特殊部隊もいるらしいですよ。尤も、悪い噂しか聞きませんけどね。本当かどうかは分かりませんが、その腕は高ランクの冒険者にも匹敵すると言われています」
「あのいけ好かない貴族か。王都でも悪い噂しか聞かないな。しかも、そんな奴に限って国王の心証がいいときている。まったく困ったもんだ」
「確かにそうなんですが、でも最近は悪い噂を聞かないというか、寧ろ――」
「ん?どうかしたのか?」
「……いえ、何でもありません。それより建物の中に入りましょう。じっとしていたら体が冷えてきました」
「そうだな。俺も凍え死ぬのは真っ平御免だ」
訓練場に入るクライツェルとミハイルの背中を見ながら、レオンは自分の支配下にあるシリウスのことを考えていた。
(シリウス嫌われてるなぁ。まぁ、俺も嫌いだけど……。二人の話を聞く限り、住民の好感度を回復するには、かなりの時間が掛かりそうだ。それにしても、フィーアを攫おうとしたあの特殊部隊が、高ランクの冒険者に匹敵するだと?どう考えてもミハイルたちの方が強いだろ?――いや、まてよ?そう言えばあいつら毒ナイフを使っていたな。それに
レオンは暫く考えて、「どうでもいいか」と、クライツェルの後を追って訓練場に足を踏み入れた。どちらが強いのか、そんなことは考えるだけ無駄である。噂の特殊部隊は、もうこの世に存在しないのだから……
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