Sランク冒険者⑱

「それと、ギルドマスターのバーナスにパーティー名を決めるように言われております。何でもパーティーのランクが一定以上になると、必ずパーティー名を決めなければならないそうです」

「パーティー名だと?そんなものが必要になるのか?まったく面倒なことだな。Sランクなど迷惑この上ない、辞退は出来ないのか?」

「そこまでは……。メチルの街に戻り次第、バーナスに聞いてまいります」


 話を聞いていたクライツェルたちが、何を言ってるんだと唖然としていた。

 Sランクと言うことも驚きであるが、それを辞退するなど前代未聞のことである。内心では誰もが、お前何のために冒険者やってんだよ!と、突っ込みを入れていた。


「ちょっと待てレオン!冒険者のランクは冒険者ギルドが決めることだ。お前が何と言おうと恐らく覆ることはないぞ?どうしても不服なら冒険者を辞めるしかない。お前はそれでもいいのか?」

「クライツェルさんの言う通りです。冒険者のランクは公平性を期すため、冒険者ギルドで厳格に決められます。冒険者ギルドに何を言っても無駄だと思いますよ」


 クライツェルとミハイルの言葉にレオンは「なるほど」と、頷いた。

 二人の話を聞く限り、冒険者のランクは冒険者の意思でどうにかなるものではないらしい。冒険者ギルドがどのような判断基準でランクを決めているのかは定かではないが、その決定は絶対であり覆ることはないようだ。

 「どうしようもないのか?」と、難しい顔で唸るレオンに、クライツェルは呆れ返る。


「抑、Sランクを辞退したいとか、発想力が豊か過ぎるだろ?お前の頭の中はどうなってんだよ……」


 その言葉に同調するかのように、クライツェルの仲間たちは大きく頷いてみせた。

 ランクが下がるならまだしも、ランクが上がることを拒む冒険者は過去にも例を見ないだろう。しかも、パーティーランクの中では最高位のSランク、冒険者であれば誰もが目指す頂きである。それを辞退したいと言い出すのだから、頭がどうかしているとしか思えなかった。


 レオンもクライツェルの言うことは分からなくもない。冒険者である以上、上のランクを目指すのが当たり前である。それと真逆の発言をしているのだ、レオンは苦笑いを浮かべる他なかった。

 何とも形容しがたい微妙な空気が流れる中、シェリーとウィズが、お茶をトレイに乗せて運んでくる。差し出されたお茶に口を付けるクライツェルらを見ながら、レオンはパーティーのランクについて尋ねてみた。


「クライツェル、パーティーのランクがどのように決められるか教えてくれないか?Sランクのお前なら知っているだろ?」

「ある程度はな。そんなに難しいことじゃないさ。パーティーでの依頼成功回数や実績、それからパーティーの総合戦力が決め手になる。レオンの場合はサラマンダーの戦力と、獣人を殲滅させた実績が高く評価されたんだろう」

「戦力と実績か……。私としてはGランクの冒険者が混じっているパーティーに、高ランクの評価を与えるのはどうかと思うのだがな。Gランクの冒険者が足を引っ張るとは考えないのか?それを加味するなら高い評価は有り得ないだろ?」

「ミハイルのところも新人が一人混じっているが、パーティーのランクは極めて高い。パーティー内で弱点を補うことができれば評価は然程下がらないさ。それに後衛の魔術師は弱点になりにくい。お前たちの場合はサラマンダーが前衛、お前たち夫婦が後衛になるんだろ?後ろから魔法を放つ分には危険は少ないだろうし、弱点とは言えなくなる。それを考慮するなら高く評価されてもおかしくないさ」

「ふむ、そういうことか……」


 弱い後衛なら範囲魔法や範囲スキルで簡単に死にそうだが、この世界では、その魔法やスキルを使える魔物が極端に少ないのだろう。そうでなければクライツェルの説明が成り立たない。

 レオンが考え込んでいるのを見て、ミハイルもクライツェルの言葉を後押しする。


「クライツェルさんの言う通りです。それにレオンさんなら個人ランクも直ぐに上がりますよ。うちのウィズも既にCランクまで上がりましたからね」

「Cランク?」


 レオンは首を傾げる。ベルカナンの依頼に同行した際、その時のウィズは間違いなく最低のGランクだった。にも関わらず、僅か一ヶ月足らずでランクを四つも上げているのはどういうことだろうか?

 不思議そうな眼差しで見つめてくるレオンに、ウィズは自慢げに胸を張った。


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