Sランク冒険者⑭
身支度を終えて一階に降りると、ラウンジは暖かい空気に包まれていた。
寒さで目が覚めた客も多くいるのだろう。早朝にも関わらず、ラウンジは大勢の客で賑わっている。ラウンジで温まりたい気持ちもあるが、クライツェルらはラウンジを横目に通り過ぎると食堂へ急いだ。
食堂では既に食事の準備が整っており、スープの美味しそうな匂いが立ち込めている。暖房器具は置かれていないが、食堂の中は竈の熱で十分に暖かい。
カウンターで食事を受け取りテーブルに着くと、今日の予定を伝えるためクライツェルは口を開いた。
「みんな聞いてくれ。食事が終わったら兵舎に行って馬と情報を受けとる。本当は真っ先に防寒具を買いに行きたいが、まだ店は開いていないだろうからな。何か異論はあるか?」
クライツェルが仲間を見渡すと、三人とも無言で頷き返してくる。
そして話は終わりだと言わんばかりに、みな食事を始めていた。だが、これはいつものこと、クライツェルも特に気にする様子もない。リーダーの独断先行に思えるが、それだけクライツェルには実績があり、仲間からの信頼も厚かった。
今回の依頼は国から、しかも伝令鳥を飛ばす程の急ぎの依頼である。クライツェルたちは食事が終わると休む間もなく宿を出ていた。
見上げた街の上空には雲が無いにも関わらず、北の山脈は厚い雲に覆われ真っ黒に染まっている。風も止む気配が見られず、クライツェルは顔を顰めた。
まだ雨がないだけましであるが、それも今後どうなるか分かったものではない。最悪な天候での出発に誰もが意気消沈する。
クライツェルらは兵舎で馬を受け取り、獣人たちのことを聞くが、目星い情報は何もなかった。だが悪いことばかりではない。兵舎には既にクライツェルらの防寒具と保存食が用意されており、街で買い物をする手間が省けたからだ。ここまで用意してくれるとは聞いていなかったが、逆に言えば、それだけ早く依頼を完了してもらいたいという意思の表れである。
クライツェルたちは厚手の防寒着を着込み、更にその上からマントを羽織る。馬にも寒さを凌ぐための毛皮が掛けられると、一斉に街の外へと馬を走らせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます