Sランク冒険者⑪

 レオンがグラスランドへ飛んだ時には既に陽は落ちていた。

 天守閣に置かれた紙燭しそくには真新しい蝋燭が立てられ、蝋燭の灯す炎が紙を通して仄かな明かりを周囲に放つ。蝋燭の明かりしかない薄暗い大広間ではあるが、それが古き日本の風情を醸し出していた。

 上段の間では、胡座をかいたレオンが脇息に片肘をつきながら事の次第を説明し、下段の間では、正座をした撫子が静かに耳を傾ける。


「――と、言うわけなのだが。ベルカナンの住民に負担をかけないためにも、どうにかならないか?」

「暖かい風を起こすことは可能と存じます。風花をお呼びしますので、レオン様から直接お声を掛けていただけたら幸いです」

「別に構わんが……、呼ばずとも通話でよいのではないか?」

「風花も直接レオン様からお言葉を賜りたいはず、それにレオン様とお目通りが叶うと知れば、風花の士気も上がることでしょう。レオン様への忠誠と敬愛の念も深まると存じます」


(そんなんで士気が上がるのか?それに忠誠と敬愛が深まるだと?いや、撫子の話を鵜呑みにするのも良くないか。撫子は気配りが上手いからな、俺に気を使っている可能性が非常に高い。全てが嘘とは言わないが、話半分に聞いた方がいいのかもしれないな)


「うむ、では風花を呼べ。私が直に命を下そう」

「レオン様、私の我が儘をお聞きくださりありがとうございます。早速、風花をお呼びいたします」


 撫子は深々とお辞儀をすると瞳を閉じて通話を始めた。だが暫くすると、困ったように顔を顰めて溜息を漏らす。


「申し訳ございませんレオン様。風花と連絡を取りましたところ、それを聞いた雷花もレオン様にお目通り願いたいと……」

「そう言えば、二人は一緒に行動していたな」

「はい。風花は風を起こすため、雷花は雲を作るため、二人は国境の上空にて一緒に待機させております」

「二人とも国境の警備に付いているのだ。風花だけ呼ぶのは気が引けるな。遠慮はいらん、雷花にも来るように伝えろ」

「畏まりました」


 撫子が通話で何かを伝えた途端、大広間を一陣の風が吹き抜ける。

 風は蝋燭の炎を揺らすと瞬く間に消えてゆき、代わりに二人の少女が姿を現す。十五、六の少女たちは、レオンの姿を見るや我先にと飛びついた。


「レオン様!お会いできて嬉しいです!ずっと会えなくて寂しかったんですから!」

「それはすまなかったな雷花」


 レオンの右胸に飛び込んで来たのは雷神の雷花である。

 短めの金髪が印象的な雷花は、肌寒い夜でも水着のような虎柄のパンツと胸当てを身に着け、露出した肌を擦り付けるようにレオンに甘えていた。

 レオンが頭を撫でると、「えへ~」と、だらしなく表情を崩している。

 それを見たもう一人の少女、風神の風花も負けじとレオンに迫ってくる。レオンの左胸にしがみつき、恥ずかしそうにお願いをする。


「レオン様、風花も、風花も頭を撫でて欲しいです」

「よいとも。これでどうだ?」


 レオンは風花の頭に指を這わせた。

 髪をくように撫でる度、薄緑の長い髪が風に靡いて舞い上がる。無意識の内に風を操っているのだろうか、身に纏う羽衣が髪と一緒に揺れ動いていた。

 風花の口から思わず、「気持ちいいですぅ」と、言葉が漏れる。レオンに抱きついた雷花と風花は離れる気配が全くない。

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