Sランク冒険者⑨

 視線の先にいるのは何処にでもいる二十代の優男だ。この世界では見慣れたブロンドの髪とブロンドの瞳、そして端正な顔立ちをしていた。

 寒さで震える姿はSランクの冒険者とは思えないが、レオンを捉える眼光だけは気迫に満ちている。暖炉の前で椅子に腰を落とすクライツェルであったが、椅子から立ち上がるとレオンの下へと歩み寄る。

 そして、すっと左手を差し伸べ真っ青な顔で笑みを作った。


「レオン・ガーデンだな?俺の名はクライツェル、王都で冒険者をしている。お前の活躍は王都でも噂になっていてな、俺も一度会ってみたいと思っていたところだ。こうして会えたのも何かの縁に違いない」

「そうか、私もかの有名なSランクの冒険者に会えて嬉しく思う。よろしくなクライツェル」


 レオンも椅子から立ち上がり握手を交わす。

 クレイツェルの手は氷のように冷え切っていたが、その手は力強く握り返してくる。外套の隙間から見えたのは体に張り付くような薄着の衣装であり、鍛え上げられ隆起した筋肉がレオンの視界に入る。

 それを見たレオンはクライツェルが震えていた理由に納得する。無駄な贅肉を極限まで削ぎ落とした体は寒さに対して弱いのだろう。にも関わらず軽装であることから、やはりクライツェルは剣士や戦士というよりは、野伏レンジャー暗殺者アサシンに近いとレオンは断定する。

 腰には立派な剣を差しているため、接近戦を得意とする暗殺者アサシンの可能性が高いだろう。

 レオンはそのまま装備の確認に移る。だが相手を観察しているのはレオンだけではない。クライツェルもまたレオンのことを観察していた。レオンの左手に視線を送り、そして嵌められた鉄の腕輪ブレスレットを意外そうに見つめる。


「まさか本当にGランクだとはな。サラマンダーを騎乗魔獣にしてるっていうから半信半疑ではあったんだが……」


 Gランクの冒険者が騎乗魔獣を従えているだけでも類を見ないことだ。しかもサラマンダーともなれば、名の知れた上位の冒険者でも従えることは難しい。

 クライツェルはランクの低さが強さに比例しないことを知っている。近衛騎士や名の知れた傭兵、宮廷魔術師が冒険者になることもあるのだ。Gランクの冒険者の中には、今までにも数多くの強者がいた。

 だが、それでも上位の魔物を騎乗魔獣に出来たものは何人いただろうか?少なくともクライツェルの知る限り、Gランクで上位の魔物を騎乗魔獣に出来た者は存在しない。

 そこで気になるのが目の前にいるレオンの強さである。ミハイルから聞いた話では妻と二人だけのパーティーだという。サラマンダーを従えた経緯は知らないが、僅か二人でサラマンダーを従える実力とは如何程のものだろうか……

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